紅葉


□忘却の彼方に
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あれから、数日程経っただろうか、重里は清平に頼まれた巻子を抱えて詰所の中を歩いていた。ふと、足元に一枚の木の葉が舞い落ちた。

「……」

それに気付いて、何気なく足を止めた重里は、庭先に目をやった。
そこには、散り始めた紅葉が、枝を揺らしていた。

「呉葉……」

思わず、重里はそう呟いていた。
彼女の記憶は消え去ってしまった筈なのに、重里の中に僅かに残っていた小さな小さな欠片が、心に確かな波紋を生み出した。

「…何…言ってんだ…俺」

紅い…赤いその木の葉が、誰かの面影を思い起こさせようとしていた…。
でも…、それはあまりに哀しい記憶、木の葉に命を託して散った、女の面影……。

「く…れ…は…」

重里は、あとからあとから溢れ出す涙の理由も分からず、ただもの哀しい秋の景色を見つめ続けていた。


風に身を任せたゆたう、紅の木の葉。それは何年…何千年経っても咲き誇る……紅の華…。
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