紅葉


□百鬼夜行
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秋も深まると、紅や黄金色に色付いた木々が葉を散らし始める。
時は天朝が分裂し、天下を争っていた時代。
この頃の都人は、最早かつての様な雅な生活から遠ざかってしまっている者が多く、壮麗な美しさを誇った町並みには陰が落ちつつあった。
そんな混沌とした都の小路を、ひとりの供も連れずに歩く女の影。急いでいるのか、市女笠を深く被り、足早に小路を抜けて大路に出た。

「……?」

途端、ふわりと生暖かい風が頬を撫でた…。
女は、何かに導かれる様に大路の向こうを振り向いた。すると、

「 ! 」

路の向こうから、影の集まりの様な集団が近づいて来ていた。ぼんやりとした青白い光を掲げたその行列を成すのは…、異形の者達…。そう、百鬼夜行に出くわしてしまったのだ。

「……っ」

異形の行列が迫る光景を視界に入れた途端、金縛りにあったように女はその場から動けなくなった。恐怖と畏怖…それが女を動けなくしていた。
その時。

「何をしてる…!呑まれるぞ!」
「……!?」

突然、暗がりから伸びて来た腕に強引に引っ張られ、倒れ込む様に影の中に引きずり込まれた。瞬間、恐怖で周りが見えなくなりかけたが、すぐに感じた人肌の体温に、我にかえった。

「な…、何者…っ」
「黙れ!」

我に返って声をあげようとすると、短い言葉と供に口を塞がれてしまった。

「……?!」

骨ばっていて、大きな男の手。耳元で響く低い声。確かに感じる体温と心臓の鼓動に、次第に恐怖が薄れていく…。

「…臨、兵、闘、者、皆、陣、裂、在、前…」

すぅ。と、軽く息を吸い、静かに速くつむがれた呪言。男は空いている片手を胸元に構え印を結んだ。
途端、周囲の空気が沈静化し、先程まで肌を撫でていた生温い風は消え、包まれる様な暖かい風が頬を撫でた。

「……」

羽衣の様な薄い空気に包まれた二人の目の前を、百鬼夜行の列がゆらり、ゆらりと揺らめきながら通り過ぎていった…。
行列が通り過ぎても暫く、時間が止まっているかのように二人は影の中に身を潜めていた。
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