花冠

□二章
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王と帷湍らを残して露台に出た六太を追って彼女も薄暗い外に出た
夕刻の微かに冷たい風が頬を過ぎる
雲海の東から三日月が昇ろうとしていた


「……血生臭い……」

「台輔」

「……話はいいのか、玲良」

「ええ」


独り言を呟いた六太の横に彼女は並んで付き添う
おそらくこれから戦いになるだろう
今まで内戦にならなかったことが不思議なぐらいだった
血生臭い予感に気分が沈むのは生来、戦いや流血が嫌いだからだ
麒麟の性だからかもしれないが、決してそれだけではないと六太は思っている
戦火は人を不幸にする
折山の荒廃
やっと緑が甦ったこの国に、再び戦乱が起こる
荒廃する山野、流される血、親を失い、あるいは生活に困窮して斃れていく子供たち
六太はその悲惨さを知っている
あの頃の子供が大人になった年月が経っても忘れることはない記憶
自分もかつては山に捨てられ、死ぬのだと思った
それでも、かろうじて生きながらえたのは彼が特別な麒麟という存在だったからだ
本当の世界からの迎えがあったから、今ここにいる


「ここに来るのは、久方のことです」


白銀の里木には実が実る
子供がその中に入っていて、ぱかりと割れて生まれてくるのだ
麒麟や王も例外ではない
しかし、六太や尚隆は実のときに災異に呑まれ流された
そして、本来は別世界である流れ着いたあちらの世界の母親のお腹から生まれた
生まれた子供を胎果という


「……おれも。こんな三日月の夜は、更夜を思い出す」

「登極間もない頃に出会った子供、ですね」

「ああ。玲良には話したっけ。今、思い出した」

「更夜のような子供をもう私たちは出してはいけない。でも、戦わなければ守れない。本当に難しい選択を主上はしておられます」

「分かってる」

「私もそろそろ覚悟する時期にあるのかもしれません。元州は思い入れがある、生まれ故郷ですから。こんな話、台輔にするべきじゃないのでしょうけれども」

「優しいな、玲良」

「違いますよ、台輔」


結局、自分はずるいのだ
見たくない聞きたくないと塞いでおくことができなくなったときに、思い切りが踏ん切りがつかない
一度選んでしまえば、楽で何もかも冷酷に進めることもできる自分がいるのを分かっていてできないでいる


「私はもういい加減に主上に従うべきなのに、足掻いているだけなのですよ」


麒麟のような理想を夢見ている




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