ビアンカに再会したのは偶然だった 彼女は深くは語れないものの、依頼を終えた仕事帰り ビアンカはグランピアから進学のために見知らぬ土地に地図を片手に、もう片方には大きな鞄を手にしていた そして、ターミナルで互いに真正面からやって来る相手に、あっと声を漏らした 「こちらの福祉学科に?」 「ええ。ママとパパは寂しがってたけどね」 「そう」 立ち話もどうかということで、近くの喫茶店で彼女らはお茶を頼んだ 彼女から聞かずとも、ビアンカは鳶色の瞳をきらきらさせてこれからの希望を語ってくれた その様子を可愛らしく活発な気のいい少女だと彼女は視力を取り戻しても変わることがなかったビアンカの話を微笑ましく聞いていた 「あ、私の話ばっかりしちゃってたわ。レイラは……」 「ちょうど仕事帰り。歩いていたら、ビアンカに似た人が歩いてるんだもの。吃驚した」 「……仕事。社会人だったのね。てっきり私、レイラのこと高校生か大学生かと思ってた」 今の彼女の姿はスーツで、彼女の年齢を上に見せる効果がある彼女はビアンカには何者か正確には何も明かしていなかったことを記憶の片隅から引っ張って思い出したので、適当にビアンカの興味が逸れるような話を振った 深く詮索されるよりも、ビアンカとは関係を良好に保っておきたかった 「ヴァンツァーには連絡した?彼、喜んでたでしょう」 「ええ。今度の土曜日に会う約束してるの」 「それは」 楽しみね、と彼女は言わずに口を噤んだ ヴァンツァーがビアンカに対して優しく微笑むことを知っていて、かつ寮での態度を知っているからこそ、これはちょっとした見物だと彼女は考えた 「ねえ、レイラ」 「ん?」 「あなた、ヴァンツァーのこと、どう思っているの?」 彼女は口に含んだ紅茶をゆっくりと飲みこんだ ビアンカがそれを聞いてくるのは意外だった 彼らと同じ高校生として同じ寮にいたときはそれなりに仲は良かったが、それも寮の外での話だ だから、彼らや彼女の友人らにそのことを覚られずに、その年齢特有の恋愛話などには発展しなかった ビアンカの聞いていることは、きっとそういう意味もあるのだろうし、また別の純粋にどういう人と思っているのか聞いたことがないからこそ、聞いてみたいと思っているように思えた 「命の恩人」 彼女は少し過去のことを思い出して、薄く笑った ヴァンツァーには出会ったばかりだったのに、随分と助けられた 彼女が直接助けを請うたわけではなかったが、結果として助けてもらったことには変わりないと考えている そして今も時折、不本意かもしれないが手を貸してくれる 「そう。私と似てる?」 「ビアンカに言われてみれば、そうかもしれない」 「……これだから、ヴァンツァーも苦労するわけね」 ビアンカにしてみれば、彼女と自分は全く違う 目が見えなくても見えても、ヴァンツァーや彼女は態度を少しも変化させなかった まるで本質を見抜いている玄人のごとく、側にいた そして、目が見えるようになって更に視覚的にもビアンカが実感したことがある ヴァンツァーは彼女のことを自分とは別の意味で好きであるのだということが端々の配慮から見受けられたのだ それに対し彼女は人のこととなるとすぐに察する癖に、自分のことには全く歯痒いぐらいに気づかない でも、そんな彼女だからこそ、ヴァンツァーのような希有な人間を同世代でも惹きつけられたのではないかと同時に思った ビアンカ自身、どうこうするわけではないが、少しでもヴァンツァーが報われることを祈っていたが、案外上手くはいっていないようだった 「何か言った?」 「ううん、レイラはやっぱり相変わらずね」 「褒め言葉としてもらっておくわ」 彼女がもう行かなくちゃと立ち上がって、その伝票を手に取った 素早くお金を払ってしまい、颯爽と去って行くその後姿に鈍感でもやっぱり社会人の彼女には敵わないとビアンカはその背に強く手を振った |