euphoria

□限りなくデートに近い何か
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週末を迎えたアイクライン寮はいつもより学生の出入りが増えて騒がしくなる
春から夏の手前ということで、日中は外にいると軽く汗が滲むぐらいの気温なので何処かに遊びに行くような様子の学生の服も学校に行くときよりも随分とラフである
寮から出掛ける学生が多い中で、その中に一際目立つ少女が流れとは反対方向、寮に向かって歩いていた


「……なあ、あれ誰だ?」

「誰かの彼女?凄く綺麗な子だけれど」

「少なくともアイクラインの子じゃないな」


高校生だろうか
膝丈のサーモンピンクのスカートに、控えめで上品なレースで縁取られた襟の白のブラウス、薄手のロングカーディガンは柔らかいベージュ色をしており、かっちりとした茶色の小さめの肩掛鞄を片手で持って歩いている
こつこつと音を鳴らすのは少し高めで歩くのにも支障なさそうなしっかりとしたロ―ファパンプスで、学生でありながらも大人っぽさを演出している
声をかけたそうな生徒を雰囲気だけで近づけさせない


「来た来た」


その彼女に簡単に話しかけたのはアイクライン寮が誇る美少女、ではなく美少年だった
いつも隣にいる片割れの姿はなく、金髪の姿だけが寮の玄関にいることを大半の通り過ぎる生徒が不思議そうに見ながら通り過ぎていたが、彼女はその姿を認めると硬かった表情を緩めて駆け寄った


「待った?」

「いや、さっき出てきたところ」


普通の学生カップルように思えるこの会話に、寮前のリィの隣で同じく待ち合わせしていた高校生のファビエンヌは目を剥いた
一緒に出かける相手を待っているのだと言われて、いつも通り天使の片割れであるシェラを想像していた


「ヴィッキー。まさか貴方、今日一緒に出かけるって……その子なの?」

「ああ。レイラだよ。レイラ、一緒の寮のファビエンヌ」


ファビエンヌは彼女の容姿から、これはまた凄い人間離れした者と出会ってしまったと感じたが、彼女はリィからファビエンヌの紹介を受けると納得して礼儀正しく会釈する


「レイラです。ヴィッキーとは仲良くさせてもらっています」

「ヴィッキーに、まさか女友達がいるなんて吃驚したわ。レイラは高校生なの?」

「はい」


中学生と高校生では随分と佇まいが違うことを同年代である少年少女なら肌で感じる
彼女の雰囲気は子供と言うよりも大人の雰囲気に近く、不思議な落ち着きがあった


「そう。貴女なら、何となく納得してしまうわね」


リィの隣に立っても少しも卑屈な感じがしない
目立つと言えばリィの方が容姿が目立っているのには違いないのだが、それと同等、それ以上の何かが彼女にはある気がした


「ファビエンヌ、俺たち少し急がないといけなくて」


リィが時計を気にしたので、ファビエンヌも確認すると自分もそんなに油を売っている時間はなさそうだった


「もうそんな時間?」


彼女が年相応の少し不安そうに顔を曇らせたことに、ファビエンヌは何故か安心してしまう


「ああ、多分間に会うとは思うけど」


リィは大丈夫だと彼女の肩に自然に触れた


「そう。また時間があるときにお話しできると嬉しいです、ファビエンヌさん」


笑顔を取り戻した彼女がファビエンヌに丁寧に頭を下げた
その瞬間、彼女の髪が流れてきらきらと光に当たった
リィとは対照的な黒い髪であるのに、対比して思わず見とれてしまうが、ここは上級生
落ち着いて微笑み返して彼女の手を握った


「ええ。いつでも話しかけて頂戴」


彼女とは気が合いそうだ、とファビエンヌは無意識に感じていた


「ごめんな」

「気にしないわよ。それより……楽しんでらっしゃい」


後輩が気にすることではないのに、リィはやはり同じ中学生の子たちとは違い、小さい子に対してするように変に気にする
それが悪いとは思ったことはない
寧ろ、丁寧と言えばそれよりも丁寧な中学生がいつも後ろに控えている


「ファビエンヌも寮長と仲良くな」

「失礼します」


二人の手が繋がれるのを後ろから見送って、やはりお似合いだと、周囲が少しざわついているのにも気にも留めずに、ファビエンヌは踵を返した


「……上手くやれた?」

「十分だよ。どうした、珍しいな」

「普段こんな目立つ役割はしないの、探偵は。リィは凄いわ」


今もまだ後ろの方から何人かの熱い視線が追いかけてきているというのに、本人はどうしたと素で聞いてくる


「レイラ。わざわざこっちまで来てくれてありがとう」

「どういたしまして。断るわけないじゃない。リィからのお誘いだもの」

「ルーファのは?」


この金色天使、随分可愛らしいことを聞くと彼女は感心した


「何、競い合ってるの?……ルウの誘いは」


大体、ルウの誘いは急なことが多いのが悪い


「まだ、あんまり」

「じゃあ、今は俺の方が一歩リードなわけか」

「リィ。頭、打った?」


嬉しそうに笑うリィは普通の中学生、握った手を強くまた握る彼女は普通の高校生になった気分だった


「いや、真剣だ」


碧の綺麗な瞳をじっと見ていると吸い込まれそうで、思わず逸らす
彼女は自分の顔に熱が溜まるのを感じた


「そう。……ありがとう」


探偵という仮面も、人外という事実も知った上で付き合う人間の前では、今は在り来たりなお礼しか彼女の口から出てこなかった




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