仕事の合間の束の間の休日を有意義に活用しようとするのは悪いことではないはずだった 偶然にも予定が合った彼女とルウは昼食の約束をして、サフノスク大学の図書館の入り口で別れた 金銀天使も待ち合わせて食堂で昼を食べるらしい この上もなく目立つ集団に加わることになるのだが、この大学ではその状況にも慣れが生じている時期らしく、今混じってもより特別な注目を集めるわけでもないので、彼女は了承した 「ルウ、私そろそろお昼に」 読書スペースにちょうどやって来たルウに声をかけようとしたのだが、窓からちらっと何かを見ただけで何故か焦って本棚の陰に隠れてしまった 一体どうしたのだろうとざわめいている周囲の様子に流され、大きな窓の枠に彼女は外を覗き込むように手をかける 「何なんだ、あれ」 「さあ?何か始めるんじゃない?」 確かに目立っている 遠目にも原色に近い民族衣装を纏い、むき出しの顔や腕には複雑な刺青が彫り込まれている人が十数人 中でも目立つ一人の人物を守るように芝生の上にいる様子は日常とはどう見ても掛け離れていた しかし、彼らによく似た人物を彼女は知っている 惑星トゥルークの僧で留学生のライジャだ 雰囲気だけで圧倒されるその様は、ライジャそのものが団体でやって来たのにほかならない 「ルウ、あれって」 陰でこそこそと青い顔で誰かと話しているルウの肩を叩くと、携帯端末の向こうの声を聞くように彼女との間にそれを挟む 図書館で別れたときには生き生きとしていた表情も今では意気消沈、げっそりとしている 「何に見える?」 「どう見てもライジャの関係者ご一行。それなのになんでライジャがあそこにいないんだ?」 「ぼくも心からそれを言いたいよ。真ん中のすごく目立ってる人が彼のお師匠さんだって」 「ほんとか?」 相手は声のからしてリィ どうやら厄介なことに巻き込まれてしまったらしく、彼女も二人の会話を聞きながらため息を吐いた 回線が増やされ、シェラの言葉も聞こえるが互いに困り果てるしかなかった 「レイラもそこにいるのか?どうするんだ?」 「うん。ひとまず逃げる」 通話を切ったルウに腕を掴まれ、ここは任せた方が良いと思った彼女は従って早足でルウについて行く しかし、すぐに彼女の携帯端末の振動がした 「レイラ、今どこだ?」 「文学館七号館よね?」 頷くルウに、もう一度繰り返してリィに自分たちの居場所を伝えると、もしかしてとリィが言葉を続けた 「今こっちから見て左側に向かって進んでる?」 彼女自身、方向感覚がない類の人間ではなかったので、その通りだと応えたが何故それがリィに分かるのかまでは分からずにいた リィに反対方向に歩いてみてと言われ、ルウの手を彼女は握り直して引っ張ると言うとおりに歩いた しばらくの無言の後に、リィが小さく呻いた 「……逃げても駄目だ。ばれてる」 「え?」 どうやらライジャのお師匠さんにはルウの探査機機能があるらしい 迷わずこの大学の図書館に辿り着いたのも、それなら納得できる ルウにも聞こえるように少し端末の音量を上げると、シェラの声がした 「あくまで近くに控えてあなたを待ち、あなたのほうから顔を出すのを出迎えるつもりではないでしょうか」 「……だったら人のいないところに行かないとね」 滅多に怒らないルウが腹を立ているのは声色だけで分かる 雰囲気も何処か殺伐としたものが出てきた 「エディ。ライジャに連絡して先に彼と合流して。何としてもあの人たちには穏便にお引き取り願わないと」 「わかった」 本当に穏便に済めばいいのだがとリィも彼女も心から思った 「何か他人事みたいに思っているようだけど、レイラ。君も大いなる闇とやらの救いの光らしいからね」 そんなこともあったなと、まあとりあえずこれだけの人間が揃っていればどうにかなるのでないかと彼女は甘く考えていたし、構えていた ただ本当に困ったとは思っていたので、ある程度の緊張感を持ってルウに続いた |