惑星バラムンディのパールビーチ 名前の通り、真珠並の白い砂に青い海、色鮮やかな珊瑚礁が魅力の保養地 真夏の独特の日差しを浴びながら、彼女は今回の依頼者の元へと向かっていた しかし、こうも休暇で楽しんでいると言わんばかりの人々を見ていると羨ましくなるのも仕方がないことで、彼女は心の中だけで悪態をつきながらその横を通り過ぎた 白亜の豪邸屋敷に辿り着き、案内された部屋にいたのは彼女と年もあまり変わらないような、その家の一人娘だった 相当お金をかけているに違いないのに、化粧や服装が時代遅れで違和感があった しかし、そこは彼女の詮索する範囲ではない 「今回はご依頼ありがとうございます」 「貴女がわたくしの頼んだ探偵、なのでしょうか?」 「はい、いつもお父様には御贔屓に」 「……難しいことはお頼みしません。ただ、わたくしの指示通りにお願い致します」 「分かりました。では早速、そのご要望をお聞きします」 いつものように依頼を受け、実行するだけでしかない 趣味の悪い、後味の悪いものであっても依頼は依頼でしかない どうやら今回はその一つに数えられるものになりそうな予感が彼女にはしていた 「心理学の、論文……」 人の愛情の亀裂について調べていると、依頼者の少女は淡々と口にした バラムンディに保養に来る夫婦について調べて資料を作成し、その他諸々の探偵業務を活かした手伝いを今回はお願いしたいのだと言う 「私一人ですが、今言ったことを全てするとなると相当な金額になりますよ」 「はい。おっしゃっていただければ、幾らでもご用意します。お泊りは父が経営するホテル・オランピアのVIPを、食事はこのカードをお使いください」 「随分と準備が良いですね」 「貴女の事務所は有名ですから。これぐらいのことは用意しておけと、父に重々言われました。他に何か用意するものはありませんか?」 「車を一台、船を一艘、後はこの惑星の流行に合わせた馴染む服を一揃え」 「分かりました」 最後のは少女に対する嫌味を言ったつもりだったが、反応はほとんどなく彼女の言い分は了承された 隣でその会話を聞いていた側仕えの少年が一礼して、その場を去ったところを察するに本当にすぐに用意させるつもりだろう 若いのに金持ち特有の大した金遣いの荒さに、彼女はもう色んな業界を見てきたので驚きもしなかった それよりも、自分がこれから取り掛かる仕事がどのようなものなのかを具体的にもっと知りたかった 「この夏で幾らの夫婦をサンプリングする予定ですか?」 「最低、二百組は欲しいと思っています」 「夫には美女を、妻には色男を差し向ける?」 「言い方を悪くすれば、そう言うことです」 悪く言わなくても、そう言うことだろう 少々研究対象とされる夫婦に同情したが、金に物を言わせることしか考えていない人間に道徳だ何だと言ったところで通じるわけがない 「まあ、私共にはその辺のことは関係ないわけですが、両方の好みのタイプなども調査に含めましょうか?」 「可能でしょうか?」 「見縊ってもらっちゃ困ります。これでも、その手のプロですから」 「どの辺りまで貴女方が調査できるのか、まだわたくしには分からないので、できるだけ沢山の研究に関係のありそうな情報をお願いできますか?」 「了解しました。では、また報告は文章を持って伺わせさてもらいます」 そのときはまた何かに巻き込まれるきっかけになる火種になるなどということは彼女は予想していなかったが、微かな違和感が胸を締めつけた |