夢花

□神様の箱庭で踊れ
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神様の箱庭で踊れ
ジュダルと出会ってから、よく夢見に変なものを見るようになった
隠し事は少ない彼女だが、倒れた本当の原因と夢のことはまだ白雄に言えないでいる
夢の中で、彼女は彼女ではなかった


「ベアトリーチェ」

「ようやく、腐れ縁のあんたと離れられるわ」

「聞いたわ。お嫁に行くそうね。おめでとう」

「ありがとう。わたしはあんたと違って叶わない夢は見ないの」


胸が痛む
ベアトリーチェと呼ばれる女の本心はすべて逆のことで、大した天邪鬼だった
ベアトリーチェの結婚式は盛大に行われたが、その相手はいつも曇っていた
きっと結婚などしたくはなかったのだろう
仮初の愛で結ばれたベアトリーチェが寂しそうに笑って手を振る
誰か止めてあげてと彼女は叫ぶが誰も聞いてはいない
夢はいつもそこで終わる


「わたしは」


何もできない
嘘をつき続けることが彼女の中で溜まっているからか夢を見てしまうのか、はたまた全く違う暗示なのか彼女には分からない
相談できる相手は少ないが、このままではいけないと分かっていた
近しい信用の置ける者にとりあえず相談したい
あまりに近すぎても何も知らない者でもいけない
彼女の心に思い当たった人物は一人だった


「どうした、急に呼び出したりして」

「すみません。倒れたときも見つけてくださって、お礼もなかなかできずに」


相談するのも段々申し訳なくなってきた彼女に明るく白蓮は応じた


「いいって。兄上は豪くお前を気に入ってるし、妹弟たちも世話になってるし」

「その、それで折り入って相談が」

「何だ?」

「わたし、過労で倒れたことになっていますよね」

「ああ。働きすぎは良くない。良くないぞ」


目を閉じて頷きを繰り返す白蓮を窺いながら彼女は言葉をゆっくりと口にした


「実は、あれ違ってまして」

「ああ、そうか。……は?」


当たり前の反応に彼女は平謝りするしかない


「すみません、ごめんなさい、申し訳ありません」

「どういうことだ?」


当然理由はあるのだろと少し厳しくなった白蓮の眼光に彼女は急かされて話し始める
思い出すのも苦しくなるが、そればかりでは先に進めない


「この国の神官様、ジュダル様にちょっかいかけられそうになって、軽く殺されそうなところを別の方に助けられたようなそうでなかったような感じで。息がどうしてかできなくなって」


黒い鳥に覆われて息ができなくなった
おとぎ話のようなことを言うわけにはいかないが大体のあらましは話せたので、胸がすっとした
黒い白い鳥、ルフ
単語については調べているがまだそれらしい書物は見つかっていない


「……ジュダル。あいつか。面倒なことになったな」


苦虫を潰したかの表情の白蓮に彼女は素直に謝った


「すみません、面倒かけて」

「いいや。俺に話すのが正解だ。兄上は潔癖なくらい潔癖だろ?いつも毛嫌いしててさ」


白雄の性格は近くにいると、よりよく分かる
とても良い人なのだが如何せん、潔癖すぎる


「だと思っていました」

「もしかして、無意識に避けてたの気づいてたのか?」

「はい」

「それで、言えなかったと」

「はい」

「でも、いつか言うしかないだろうなあ」

「……はい」


途方に暮れる二人だったが、ぼーっとしていても何も始まらないと白蓮は拳を握った


「従者も主人の機嫌を取るのは大変だ。分かった、俺から兄上の様子を見ながら近いうちに直接話してみるよ」

「ありがとうございます!!」


彼女の勢いの良い礼に白蓮は苦笑した


「おいおい、できるだけ努力するが俺もお前もどの道兄上に怒られるぞ」

「巻き込んで本当にごめんなさい」


怒られても仕方がない
嘘をついてしまったのだから
元々は刺客と間違われたところを信用してもらって側に置いてもらっているのだ
殺されても仕方ないところを、きっと怒られるくらいで終わると思っているだけでも烏滸がましい気がした


「頭を上げろよ。元凶はお前じゃないんだからな。それより、交換条件で悪いんだが」

「はい」

「今度、ちょっと大きな晩餐会があって、白龍のやつが初めてで随分と緊張してるんだ」

「そうですか、大変ですね」


皇族とは色々な柵があるものだ
白龍も子どもだからと許されていたところから踏み出していくのだ
影から応援していようと思う彼女とは裏腹に白蓮は表での応援を考えていた


「そこで、だ」

「はい?」

「お前、白龍の側で相手してやってくれないか。見知った者の相手の方が白龍も少しは緊張がマシになるんじゃないかと思ってな」

「わたしで大丈夫でしょうか」


大勢の人の前に出て、白龍の相手をするなど声や体が震えるに決まっている


「ま、座って笑顔ふりまいて食事したら終わるから。頼む、この通り」


お茶目な人だ
命令だと言ってしまえばそれまでのことを、まあ従者にそんなことを頼む者などいないだろうが権力を振り回してやってしまえるようなことを本当に近しい親しい繋がりでやってのけようとする
断れない


「仕方ありませんね。交渉成立です。でも、白蓮様って本当に兄弟思いですね」

「まあ、兄上は何かと忙しいから。俺が構ってやらないと」


家族が寂しい思いをするのは嫌なのだと語る白蓮はもしかしたら白雄よりも兄っぽいのではないかと彼女は思ってしまった
結局、いざというときに頼りにしてしまったし、とても話しやすい不思議な雰囲気の人だ
この人の白い鳥は白雄のものより少し綿のようにふわっとしていて柔らかそうだった




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