家族話

□とある都の家族
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これは、とある一家を巡る、愛と再生の物語
一枚の都の絵から生まれた世界、鏡都という世界の一つがある
人間と妖怪が仲良く暮らし、人は死なず、ものが壊れても修復される不思議な都で、命ある者は平和に暮らしていた
赤目の少女たちが世界に落ちてくる、あの日までは


「コトは今日も元気ねえ」


彼女は明恵の家で、のんびりとお茶を飲んで寛いでいた
彼女の片割れの姉、コトは今日も阿吽と鞍馬寺の勢力を相手に都を暴れまわっている
夜は横で大層な寝相で寝ていたはずのコトたちの姿はいつの間にかいなくなっていて、派手な音が目覚まし代わりのようにけたたましく鳴って彼女の朝は始まっていく
そんな日常が変わらなく続いている
こちらの世界に落ちてから、母親を探すという目的はあるものの、すっかり馴れきってしまっていた


「あ、明恵さん。お帰りなさい」


明恵が朝帰りすると共に、コトたちをまるで保護者のように首根っこを引き捕まえているのも見慣れた光景だ
朝起きて特にすることがなければ、彼女は勝手に台所を使って朝食を用意している


「コト、阿吽。手を洗ってらっしゃい。ご飯にするよ」


彼女の言葉は魔法のようにコトたちには効く
騒がしい子どもたちを制することができるのは何と言っても美味しいご飯に他ならない


「全くどっちが姉なんだか」

「何か言ったー?」

「……何も言ってねえよ」

「ふふ、本当に仲良しさんで羨ましい」


明恵とコトの遣り取りを見るのは正直楽しい
こちらの世界のキョウダイたちと接していて嬉しくないはずがなかった
願わくば、少しでも長く
彼女はコトの双子の妹だが、性格や容姿は母親よりだ
だから、二人並ぶと二卵性の双子だとすぐに分かる
料理の腕も母親譲りで、現在の明恵の家の食卓や家事は居候させてもらっているお礼も兼ねて彼女が担っている
コトの茶色の髪や容姿や性格から、嫌というほど明恵上人であった父親を思い出す
同じくらい双子の彼女の似ても似つかない銀髪や鏡都の人々がミヤコ様だと見間違うほど整った容姿、包みこむような視線から、母親の古都を思い出す
どちらを向いても懐かしいばかりで、明恵は時々目を逸らしたくなる


「どうか、しましたか?」


コトたちや自分を見る明恵の様子が愁いを帯びていることでさえ、彼女は気づいてしまう


「お前らは本当に似てないな」

「君たち双子は本当に似てないね」


頭を撫でる手も同じ温かみがある
彼女は違う世界でも家族は必ず繋がっていると思っている
父親は、稲荷はコトに接するように上手く彼女に向き合ってくれなかった
それでも仕事の前には優しく頭を撫でてくれたし、彼女の料理をおいしいおいしいと食べてくれた
彼女には目の前の明恵も同じ分類に見える
不器用だけれども誰よりも優しい
コトよりも彼女に上手くできないのは、きっと自分の容姿や性格が母親譲りで思い出させてしまうからだ
今は簡単に会うことも叶わない、でも世界のどこかで繋がっている母親の古都に似ているからだ
コトと似ていない、と言われることを少し悲しく思う
それ以上に誰かに似ていると自分を通して何かを見られている気もする


「二卵性ですから。コトは父親より、私は母親よりの血を受け継いだみたい」

「……ああ」

「それより今日の卵焼き、一段と上手く焼けたと思いませんか?コト!阿吽!早くー」


それでも、今はまだ知らないふりをして、大切な者同士のままでいたい
ようやく食卓についたコトたちを迎えて、彼女は一瞬だけ静まった食卓に微笑んで手を合わせた


「いただきます」


今日も明日も明後日も、どうか家族であれますように




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