a fairy and monsters

□理想を語る
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その姿は十八歳のまだ少女に見えた
彼女は強面の彼らに臆することなく、風のようにふわりと近づいて頭を下げた


「公安局刑事課一係の方、ですね?初めまして、大神玲良です」

「監視官の宜野座です。公演終了まで、警護をこの一係で担当させていただくことになります」


この警護には裏がある


「よろしくお願いします。公演以外、あまり外には出ないように努力します」


彼女はいたって普通に不安げに眉を顰めた


「助かります」


宜野座が彼女の協力的な態度にそっと胸を撫で下ろした
彼女は違う
直感など信じるわけではないが、彼女にそんなことをされてはきっとこの辺りのエリアストレスは急上昇するに違いない


「あの」

「はい」


彼女の真っ直ぐ澄んだ瞳から流れる視線の先はいつの間にか宜野座ではなく、六合塚にあった


「……六合塚、弥生さんですよね?」

「「!」」


これには宜野座、六合塚の両方が驚いた
幾ら音楽関係の世界に六合塚がいたとしても、一年以上過去のことで、六合塚自身が彼女に接触した機会など今まで一度もない
何より彼女と六合塚は同じ女性だとしても、やっている音楽の種類が違いすぎた


「あの、私。昔から偶にライブハウスとかに音楽を聴きに行ったり歌ったりしていたので。ご存じないかもしれませんが」


彼女が完全に音楽の世界につかる前の話
その頃はただ楽しくて嬉しくて、世界は自由と希望に溢れていたかのように思っていたときのこと
彼女の記憶の片隅に確かに六合塚の姿はあった


「あの、六合塚は」

「……あ、ごめんなさい。余計な質問でした」


公安局
そんなところにいる地点で、音楽の世界とは縁を切ったに違いない
しかも、六合塚の姿は一般的なスーツで、監視官のジャケットはなく、明らかに執行官の姿だった
潜在犯落ち
芸術家の潜在犯落ちは高いと噂には聞いていたが、実際に知っている人がそうなっている現実はあまり外に出ない、外に出てくることはないので、彼女もそんな人間に会うのは初めての経験だった
しかし、ここでそれを問うことで何が解決するわけでもないと分かっている彼女は素直に謝った


「いえ」


六合塚も気にしないといった態度をとったので、彼女はその目の前に立って頭を下げる


「よろしく、お願いします」

「はい」


すると、自然にその隣の人物にも目がいった
いかにも執行官、表情は硬く自信がある顔をしている


「えっと、あなたは」

「狡噛慎也だ」

「狡噛さんも、よろしくお願いします」


彼女が手を差し出して握ると、狡噛の手は随分と冷たい手をしていた


「俺らのことは空気のように思ってくれて構わない」

「空気、ですか」

「ああ」

「それは、無理かもしれません」


彼女は悲しげに微笑んで、テーブルに飾られた花瓶の近くに落ちていた花弁を拾って接吻した


「だって、私。疑われているんですよね?」


彼女の周りの人間が不自然な死を辿っている
最初は公演舞台の小道具、次はプロモーション撮影のカメラマン、そしてつい先日には第二マネージャーが突然自ら死を選んだ
ただの自殺なら事件性がないと処理されるに違いない
しかし、今回の自殺にあたって残されたそれぞれの遺書はどれも酷似していた

歌姫に愛をこめて

たったそれだけの言葉だった


「私、信頼できない人間とは一緒に仕事しないって決めているんです」

「ほう」

「彼らは私にとって代えられない人たちだった」


彼女は心底傷ついたように一筋の涙を流すと、喉を鳴らした


「今言えるのは、それだけです」




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