おはなし*

□旅立ちの日
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六角のみんなが開いてくれたお別れ会も終わった。
海沿いの道を亮と一緒に帰る。
でも、家に帰るのがなんだか嫌で砂浜で座って雑談。
空は澄んでいて星がいっぱい見える。
辺りはとても静かで波の音と僕らの話声しか聞こえない。
まるで世界に僕らだけみたい。

「淳、もう帰るか。」
「僕まだ帰りたくないな。」
「明日早いんだろ?」
「うーん。」
「何?緊張とかしてんの?」
「どうだろ。よく分かんない。」
「初対面苦手なお前が転校とか、お兄ちゃん心配。」
「お兄ちゃんって言っても少し早く生まれただけでしょ。」
「そうだけど・・・。」

砂浜に絵を描きながら亮は言う。
何を描いているのかは分からない。

「亮は寂しくないの?」
「なくはない。」
「そうなんだ。」
「お前は?」
「寂しいというか不安というか。」
「ふーん。」
「だってさ、僕ら離れたことないじゃん。離れたらどうなるんだろうって考えると分からなくて不安になるんだ。」
「・・・。」
「変わっちゃうのかな、僕も亮も。」
「どうだろうな・・・。」
「どうなるんだろうね。」
「でも、全部が全部変わる事はないんじゃない?六角の奴らもいつでもお前のこと受け入れてくれるし。」
「みんな優しいからね。」
「うん。だからさ、もしもうまくいかなかったらいつでも帰ってこいよ。」

その一言で我慢しきれず涙が流れてしまった。
気づかれないように上向いてたらくすくすわらいながら泣くなよーって亮がタオルで拭いてくれた。
なんか恥ずかしい。

時計を見てみるとお別れ会をお開きしてからもう1時間たっていた。

「あのさ僕、ずっと転校する理由ちゃんと言わなかったけどさ今言ってもいい?」
「いきなりどうしたんだよ。まぁ、いいけどさ。」
「あのね、僕スカウトすごく嬉しかったんだ。僕なんかを認めてくれる人がいるって。だから、ルドルフに行こうって思ったの。自分の力を試したいんだ。」
「うん。」
「でも、いざ明日ってなると不安でさ。六角のみんなのこと大好きだから離れたくなくなっちゃったし。駄目だよね、自分で決めたのに。」
「誰でもそうなると思うけど。」
「・・・亮が優しい、おかしいよ。」
「お前基本失礼だよな、兄にむかって。」
「くすくす。」
「そういうとこ治せよ!いじめの対象になりかねないからな。」
「じゃあ治すよ。」
「でも、淳ならなんとかなると俺思ってる。」
「え?」
「俺の弟だからな!」
「なにそれ!」
「くすくす。
 ・・・じゃあ、ゆっくり帰るか。」
「そうだね。」

帰ったのが遅すぎてお母さんにこの日はこっぴどく怒られてしまった。
亮と一緒に怒られるのも最後なのかな?
いや、これは最後じゃないな。

夜は寝つけなくて、亮がずっと話し相手になってくれていた。

そして、ルドルフへ行く日。

「忘れ物はないな。」
「大丈夫。いざとなったら亮が東京まで持ってきてくれるでしょ?」
「交通費は淳持ちな。」
「えー。」
「えーじゃないよ。
 じゃあ、いってらっしゃい。」
「・・・いってきます。」

亮や六角のみんなに見送られながら僕は一人電車に乗った。
これからは仲間じゃなくてライバルだ。
とか、思うとやっぱりなんだかさみしいや。
一人そんなことを考えていると見慣れた町は遠ざかってしまった。
でも、東京までの道のりはまだまだ遠い。



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