Butterfly

□Last−After
9ページ/11ページ


「……」

「レイン……?」


部屋で荷物をまとめながらもぼうっとしているレインを、ナミが気遣うように見つめていた。


「勝手だな……、私は……」

「レイン……」


深々と溜め息をつくレインを見て、ナミとロビンは心配そうに顔を合わせた。

しかし、ナミは笑顔を作ると、わざと明るい口調で言った。


「ねぇ、レイン? プレゼントがあるの!」

「え……?」


ナミが持ってきたものは、レインが着ていた物と全く同じドレスであった。


「……四代目!」

「ふふっ! ロビンがたまたま見つけたの! 前のは破れちゃったし……なんか、意味あんでしょコレ?」


レインは二人に感謝すると、ドレスを見つめて微笑んだ。


「意味と言うか……意地だな」

「え?」

「ふふっ……。スウィ―トとセクシ―が必要なんだそうだ」

「なにそれ? あははっ!」


三人がひとしきり笑った後、ロビンがふと口を開いた。


「ところで……どこがいいのかしら?」

「え?」

「あ! そうよね。無愛想で気が利かなくてお金も持ってないし……どこが好きな訳?」


二人は、レインに面白がるようにニヤニヤと詰め寄った。

レインは戸惑いつつも、すぐに悪戯な笑みを二人に向けた。


「私を……好きな所かな」


ナミとロビンは驚きながらも吹き出した。






皆が飲んで盛り上がる中、レインは甲板へと出てきた。

もう外は薄暗くなっている。

中の喧騒は遠のき、波の音だけが繰り返し耳に届く。

船内のどこにもゾロはいなかった。

だとしたら、きっとあそこしかないだろう。


「……」


いつも二人で海を見ていた場所まで来ると、一つの人影を発見する。

しかしそれは、腰を下ろし胡坐をかいていた。


「ゾロ……」


反応はない。

どうやら眠っているようだ。

レインはゾロの背にそっと自分の背をつけ、そのまま腰を下ろした。


「ゾロ……私はもう、海は見ない」


レインはまるで独り言のように静かに言葉を紡ぎだした。


「……一人になってから海を眺めて考える事は、お前の事ばかりだった。――どういうわけか、私はお前といる時が一番自分らしくいられるようだ……」


その理由はわかっている。

ゾロが全てを受け入れようとしてくれるからだ。

自分が殺し屋だろうが、賞金首だろうが、他の男を愛していようが、だ。


「だから、私は海を見ない。そのかわり、必ずまた会いに来る。その時、私は本当にお前の物になる……」


ゾロの無防備な体に自分の体を少し預けると心地いい体温が感じられ、レインは安堵に包まれた。

レインはゾロが起きやしないかと思ったが、聞こえてくるのは相変わらず静かな寝息と波の音だけだ。


「それまで、これを預かっていて欲しい……」


そう言うと、レインは力無いゾロの手の中に一つの紙の切れ端を握らせ立ち上がった。

ゾロを最後にちらと見ると、船内に戻ろうとドアノブに手を掛ける。


「言い忘れたが……」

「……ッ!」


突如発せられた声にレインの体は強張った。

振り向くと、ゾロは先ほどの体勢のまま目だけを薄く開けていた。


「その服は悪くねぇ……。だが、今度は俺の選んだ服を着ろ」

「……」


ゾロからファッションに関する意見が聞けるとは、奇跡に近いかもしれない。

しかし、意地になってまで着続けた甲斐があったというものだ。

レインは背を向けたまま微笑むと、船内へと戻っていった。


「……」


ゾロは、手の中にあるレインのビブルカ―ドを見つめると、そっと握り締めた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ