Butterfly

□After-After
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「よくも兄弟達をぉぉ〜っ!!」


カリブ―はヒナから体を離し、怒り狂いながらレインに迫った。

その体はすでにどろどろに液状化している。

そして、その姿から想像もできないほど素早い動きで、カリブ―はレインの首に手を伸ばした。


「うっ……!」

「おまいさんを取り込んで窒息させてぇぇ〜っ、その上で埋めちゃうぜぇ〜っ!!」

「くくっ……できるかな……?」

「なぁにぃぃ〜?」


その時、がちゃん、と音がした。

それは、レインの首を絞めていたはずの手から聞こえた。


「はぁぁ〜っ!?」

「……好きだろ? 手錠!」


レインは自分の手にはまっていた手錠を、カリブ―の手へと移動させていた。

そして、もう一つの輪っかをヒナの隣のパイプへと繋いだ。


「あぁぁ〜っ!! ……ちょっと、おまいさん!! 早まっちゃだめだよ〜っ!! 俺ぁ無抵抗だぜぇぇ〜!?」

「……」


しかし、レインはそんなカリブ―は無視してヒナの手錠を外すと、自分の剣をすっと差し出した。


「……お前が、殺すんだ」

「!」


ヒナは戸惑った。

レインの瞳はあの時と同じ、冷酷な色を放っていた。

つまり、本気ということだ。
海兵としての自分の立場からいえば、この男は生きたまま捕らえてエニエスロビ―に連れて行くのが筋だろう。

しかし。


(女としての自分は……!)



「!? ……ぎゃあぁぁ〜っ!!」


ヒナはレインの剣を受け取ると、一思いにカリブ―に突き立てた。

わざと急所を外して痛ぶる事もできたが、そうはしなかった。

それが、ヒナのぎりぎりの理性だった。


「あぁぁぁ〜……!」


耳を塞ぎたくなるような、断末魔の悲鳴がしばらくその部屋に轟いたが、やがてそれは静かになった。


「はぁ……はぁ……」


ヒナは自分が壊れるのが怖かった。

恐らく本能の赴くままに剣を振るえば、自分が嫌う残忍な海賊と変わらなくなるだろう。

しかし未だ消える事がない体を這い回るようなぞっとする感触に、心が折れそうになるのも事実だった。


「……はぁ……可笑しいでしょ……? いくら海軍大佐といえども中身は女……。激情に任せて、捕らえる事のできる海賊を殺すなんて……!」

「……」


レインは、剣を握り締めたまま震えるヒナの手にそっと触れ、それを放させた。


「――私の母国が攻められた時、敵国の王は私を陵辱しながらその目の前で父と母の首を切り落とさせた……」

「!」


ヒナの頭に、当時の戦争について記した資料の中身が掠める。

もちろん、そんな凄惨な話など載っていない。

どちらの国が勝ち、負けたという事以外は知る必要がないからだ。


「女である限り、何度でも有り得る事だ。……まぁ、気にするな」


レインは立ち上がるとヒナに背を向け電伝虫の機械の部分を丁寧に外しながら、感情の見えない声で言った。


「……あなたは、それからどうしたの……?」

「誰とも構わず寝た。……しかし、惚れた男に抱いてもらうのが一番かな」


レインは機械の部分を踏みつけると、ヒナに振り返った。

自分のコ―トを羽織ってはいるが、服はぼろぼろに千切られ、その顔は涙と血で濡れている。


「……海軍大佐には見えないだろうな」


レインは笑うと、突如自分の服を脱ぎ始めた。


「ちょっ……!?」


白い肌が眩しく光り、弾力がありそうなふくよかな乳房がこぼれた。

ヒナはその体から目が離せないでいた。

数々の海賊との噂はどこまでが本当かは知らないが、生娘にこんな色香はまず出せないだろう。

しかし、色んな男との繋がりは本当にレインが望んでした関係なのだろうか。

先ほど、レインは言った。

初めて、意見があったと。


「……」


しばらく言葉を失っているヒナに構わず、レインはジ―ンズにも手を掛けた。

細く引き締まった脚が姿を現す。

下着だけになったレインは、脱いだ服をヒナに投げ放った。


「サイズは……大丈夫だな」

「え……あなたは?」


レインは悪戯な笑みを見せ、自分の荷物を探り始めた。


「実は、もう一つある」

「!」


それは、美しい光沢を放つ、黒のドレスだった。

体に吸い付くようなラインはまるでレインの為にあしらわれた物のようで、美しい体つきや白い肌がよく引き立っている。


「……あるじゃない、勝負服」

「いいだろ? でもこれはやれないんだ!」

「ふん。ど―せ、男に買ってもらった物でしょ!?」

「あぁ。でも、男を口説く時に着ろと言われてる」

「はぁ? 別の男を口説く為に、わざわざ服を買い与える男がいるというの? ……まさかパトロン? 不潔!!」


その質問に、レインはふふん、と笑った。


「――いいや、エロオヤジだ」
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