Butterfly

□After-After
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「はぁ……もういいか」


二人は立ち止まり腰を下ろした。


「……エ―ス、どうしてここに?」

「あぁ……いや、本当にたまたまなんだ。この近くの町に来てるだけさ」

「そうか……」


エ―スは笑うと、レインを見つめた。

少しだけ痩せたように見えるが、その姿は変わらず美しい。

しかし、以前のレインとは何かが違う気がした。

どこか儚げだった所はなくなり、その佇まいからは余裕さえ感じられる。

恐らく本当の意味でレインは強くなったのだろう、とエースは思った。


「そうだ。これ、返すよ」

「え?」


エ―スが差し出したのは、レインのビブルカ―ドだった。


「これが焦げて小さくなる度、気になってしょうがねぇんだ! だから俺はとても持ってらんねぇ!」

「ふっ……そうか」


幾度も死に目に合ったレインのカ―ドはきっと、その度に消えそうなほど小さくなったに違いない。


「あと言ってなかったが……このカ―ドはもっと大切な人間に渡すもんだ」

「え……」


レインは困惑した表情になったが、エ―スはニコッと笑い立ち上がった。


「……じゃあ、俺はもう行く」


エ―スはなるべくあっさりと別れを告げた。

このまま一緒にいたらまた船に連れて行き自分の傍に縛り付けたくなるだろう、と考えたのだ。


「エ―ス……。ありがとう!」

「おぉ! もう海軍に捕まるなよ!」


二人は笑顔で別れた。

エ―スの背中を見送りながら、もしかしたらこれを返す為に来てくれたのかもしれないな、とレインは思った。


(大切な人間……)


レインは再度海を目指して歩き出した。





しかし、しばらく行くと背中に絡み付くような視線を感じ、素早く振り返った。


「……」


今確かにあった嫌な気配は立ち所に消え、相変わらずそこには静かな森が広がっていた。

しかし、嫌な空気を払拭しきれないレインがもう一度後方を確かめようとした時、それとは違う方角から声がした。


「見つけたわよ……。ベアトリー・レイン!」

「!」

「久し振りね……。やっぱりスモ―カ―君を追ってきて正解だったわ」

「……」

「ちょっと……。何? その初対面の人間に会った時のような顔! ヒナ心外!」

「……」


レインにとって自分を追う人間の顔など、どれも変わりないのだ。


「ちょっと! 本当に覚えてないの!?」

「いちいち覚えてない……」


喚く女海兵をそのままに、レインはもう一度後方をちらと見た。


(やはり、なにか……?)


先程の嫌な気配が一層はっきりと感じられる。


「……」


レインは後方を見たまま静かに剣に手をかけた。


「ちょっと、シカト……!? もう頭にきたわ! 食らいなさい!」


その女の手から出た鉄の檻が突如襲いかかるが、レインはひらりとかわした。


「ちょっと待て! あそこに何か……」

「問答無用!!」

「!」


その時、木の影からどろりとした何かが確かに見えた。

しかし、それに気を取られたレインを一瞬速く鉄の檻が捕らえる。


「あ! バカ! こっちじゃない!」

「ふん……何言ってんの! 捕らえたわよ! ベアトリー……」


その時、勝ち誇ったヒナの視界を突然何かが塞いだ。


「な……!?」


その泥のような液体は体に纏わりつき、次第に自由を奪っていく。


「く……そっ!」


鉄の檻からは抜け出したレインの体ごと、まるで蟻地獄のように二人を包んでいった。


「う……!」

「……! ……」


それが完全に二人の体を呑み込み静かになる時を待ちわびていたかのように、一人、また一人、と男が木陰から出てきた。


「ゲ〜ップ! ベアトリー・レイン〜! 火拳とも仲良しなのね〜……ケヘヘっ」

「兄助〜。もう一人の女はどうする〜?」

「そ〜りゃおまいさん……売っ払うのさぁ〜!! 女なら何でも売れるだろうがぁ〜! ケヒヒヒィ〜!」
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