Butterfly

□After-5
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レインは耳を研ぎ澄ました。

敵がじりじりと近付いてくるのがわかる。

五、六人ってとこか。

動きを封じられたらそこで終わりだな。


「……ッ」


レインはいち速く動くと、迷う事無く照明を破壊した。


「なっ……!?」


そして声がする方向に片っ端から剣を振る。


「うぎゃあっ!」

「おい! どうし……!? ぐがぁっ!!」

「なっ!? お、おい!」

「……」


しばらく恐怖に慄く声と悲鳴が交錯していたが、その内に嫌になるほどの静寂が辺りを包み込んだ。


「はぁ……はぁ……」


残された男は、見えない恐怖に身動きが取れなくなっていた。

がくがくと足は震え、息遣いは荒くなる。

その時、男は思わず両手で口を塞いだ。

自分の呼吸一つでさえも、命を落としかねない。

あの女の異常さは船の上でも感じていたが、まさか目の見えぬ状態でここまでしてくるとは。

男は後悔の波に押し潰されそうになりながらも、音を立てないように慎重に後ずさった。

しかし、船の倉庫だったそこには、運悪く積み荷が置いてあったのだ。


「……!」


男の踵に当たり、積み荷はガサッと音を立てた。

男は固まったように動かず、辺りの音に集中したが、相変わらず静かなままだ。


(気付かれなかったか……?)


その時、自分のすぐ背後からひどく冷たい声がした。


「そこか……」

「ひっ……!」


心臓にそっと氷を当てられたような感覚に、もはや悲鳴も満足に出てこない。

もつれる足でドアに向かおうとするが、最早その足が前に出る事はなかった。

男は即座にただの肉片となり、その場に崩れ落ちた。


「……」


終わったか。

この場に人間の気配はなくなった。

レインは壁伝いに出口を探し、ドアに触れた。

途端に、光が差すのを感じるが、同時に波の音も耳に飛び込んできた。


「やはり、船の中だったか……」


陸からどれほど離れているのかわからないが、目の見えないレインにとってはかなり困った状況だった。

さて、どうしたもんか、と思っている時に、上から聞き覚えのある声がした。


「あらら。まいったな。心配して戻って来てみればやはりこれだ……」

「!」


その声は、レインをここに連れてきた男のものに間違いなかった。


「まったく……元気のいいお嬢さんだ」

「うっ……!」


上から聞こえていた声は、一瞬でレインの背後に回り、その体の自由を奪った。


(この男、強い……!)


レインがどんなにもがこうとも、その体はびくともしない。

レインの背中にくっついている体は、特別巨体という訳ではない。

どちらかというと細身で、身長もさほど高くはないようだが、相変わらずその力が緩まる事は無かった。


「くっ……!」


レインは苦し紛れに抜いた剣を男の足に刺した。


「! ……」


一瞬男が怯んだ隙にその体を抜け出したが、ここは船の上だ。

どこに逃げるあてもない。

レインは船の縁まで行くと、海に身を投げ出そうとしたが、それはすぐさま阻止された。


「おっとっと……。海に逃げると言うのか? 危ないだろう」

「放せ!」

「だめだ……。お前は予定通り赤髪を陥れる為の餌になってもらう。俺は、その為に奴の船に潜り込んだんだからな……」

「……ッ!?」


男は、レインの腹部に拳を入れた。


「ぐぅ……ッ」

「これで少しは大人しくしててもらえるかな?」


レインの体から力が抜け、床に倒れ込むと、男はすぐさま跨ってきた。

レインの服をゆっくりと剥ぎ取ると、楽しむようにその体を見つめる。


「これが、赤髪の女か……」
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