Butterfly

□After-5
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「どうだ?」

「毒のせいで熱が引かんな……。まぁ、解毒剤は打ったから、しばらく様子を見よう」

「……」


船医が出ていくと、シャンクスはレインの傍に寄り、手を握った。

その手は熱を持ち、苦し気な呼吸は絶えず続いている。


(レイン……。なぜ一人で来た? まるで死にに来るようなものだ……)


シャンクスはレインの額の汗を拭ってやりながら、右肩の傷を見た。

良くか悪くか、毒が侵入した傷口に剣を突き立てられ、流れ出した血と共に毒が出た。

そのお陰でレインは一命を取り止めたのだった。


(相変わらず、悪運だけは強いな……)


シャンクスは薄く笑ったが、その時、レインが苦し気に呻き、大きく身を捩った。


「レイン!?」

「はぁ……はぁ……」


レインは未だ激しい呼吸を繰り返しながらも、目を開いた。


「レイン! わかるか!?」


暗い闇の中から、懐かしい声がレインの耳に届いた。

その声にレインの胸は熱くなった。


「シャン……クス……?」

「レイン! 気が付いたか! まったく無茶しやがって!」

「……」


レインは起き上がろうと力を入れるも、それはまるで体の外へするりと通り抜けていくように消えた。

仕方なく、横になったまま先程からの疑問を口にする。


「シャンクス……今は……夜なのか?」

「ははっ! 何言ってんだ! 今は朝の10時だぞ?」

「……!」


レインの瞳は戸惑ったように左右に揺れている。

シャンクスはいつまでも宙を漂ったままのレインの視線に違和感を感じ、顔を近付けた。


「レイン……? おい……」

「シャンクス……あなたの顔が……見えない……」





シャンクスはすぐに船医を呼びつけた。


「ふむ……目の機能に異常は無さそうだな。恐らく毒の後遺症だろう」

「治るのか!?」


シャンクスは船医に掴みかかる勢いだ。

堪らず船医は両手を挙げて降伏のポ―ズをする。


「一時的なものだと思うが……何とも言えんな。……まぁ、そう睨むな。希望はある」

「……」


ドアの開閉音が聞こえると、レインは手探りでシャンクスの体を触った。


「大丈夫……。そんなに落ち込むな」

「いや……なんで俺が慰められてるんだ。おかしいだろ」

「ふふっ……」


レインは笑った。

例え見えなくても、シャンクスが今暗い顔をしているのは手に取るようにわかった。

シャンクスはそんなレインの手を握り、これ以上ないほどの優しさを込めた声で囁いた。


「レイン……見えるようになるまで、俺がお前の目になる」


「ふっ……いいのか? そんな事言って。もしずっと見えないままだったら……」


その時、レインの言葉を遮るように、シャンクスは握る手に力を込めた。


「見えるようになるさ! ……もしずっと見えなければ、ずっと、俺がお前の目になってやる!」

「シャンクス……」


レインは、目が二度と見えなくなるかもしれないという事よりも、今シャンクスの顔が見えない事の方が残念だった。

それほどに、握った手から伝わるシャンクスの想いは、とても熱かったのだ。
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