Butterfly

□After-4
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レインは眠っていた。

その手に自分の手配書を握り締めて。


「……」


レインは海賊じゃない。

愛した男は死に、やっと人魚姫の話は終わったって言うのに。

エ―スはそっとレインの髪を撫ぜた。


「ん……エ―ス……」


レインは薄く目を開けると、小さく腕を伸ばした。


「……まだ見てんのか? それ」

「うん……?」


レインは手の中にあるものをベッドに放ち、起き上がった。


「……だいぶいいみたいだ。体……」

「お! そうか。じゃあ行くぞ!」

「え……」


まだ半分寝ぼけているレインを、エ―スは外へと連れ出した。


甲板に出ると、レインは一人の男に目が止まった。


「マルコ!」

「おぉ。ねえちゃん、元気になったかよい?」

「!」


やはり、あの島で会った男のようだ。


「レイン! マルコがお前をここまで連れてきてくれたんだぜ!」

「やっぱり……ありがとう!」

「島が襲われてると聞いて行ってみりゃあ、襲うどころかそこの住民に心配されてる顔色の悪い女が目の前で倒れるんだもんな。ビックリしたよい!」

「あ〜……すまなかった。騒ぎをたてて……」

「ところで、どこか行くのか?」

「おぉ! デ―トだ。デ―ト! 羨ましいか?」

「けっ! 早く行けよい!」

「ははっ! じゃあな!」


二人は小さな船に乗り込み、旅立った。




エ―スが連れて行ってくれる所は、レインが初めて見るものばかりだ。


「レイン! こっち来いよ!」


こんなに大きい町は来た事はない。

こんなに綺麗な景色も。

こんなに変な生き物も。

レインは見るもの全てに言葉を失い、自分が今までどれだけ狭い世界に生きていたのかを思い知らされた。

それと同時に、エースは本当に凄い海賊なんだと、あらためて思った。







薄暗くなってきた丘の上では、七色の空が見える。


「……」

「どうした?」

「だって……こんなの、初めて見た……」


レインは呆然としたまま、目をきらきら輝かせている。


「レイン……」


物心ついた時から戦争が行われ、協定が結ばれた後は国の復興に力を注いでいたレインは、王女といえども贅沢する事などなかった。

ジュ―ドを追っている時は様々な島に行ったが、こんな風にゆっくり見て回る事は勿論ない。


「こんな事……あるんだ……」

「あ、おい……」


レインはいつの間にか涙を流していた。

嬉しいのか感動したのかわからないが、その姿はとても可愛いらしく、エ―スは思わずその身を抱き締めていた。


「レイン……やっぱりお前、ウチにいろよ」

「……」

「それとも、やっぱり行かなきゃならないのか……?」

「エ―ス……」

「傍に、いろよ」


レインの答えを聞くのももどかしく、エ―スは唇を重ねた。

何度も優しく唇を愛撫し、その場にゆっくりと押し倒す。

しかし、レインは抵抗する事はないにしろ、ただその口づけを甘んじて受けているだけという感じだった。

やはり、レインは行くのだろう。

しかし、エースは離したくはなかった。

今離せば、二度と会えないような気がしていたのだ。

壊れそうなほど繊細な肌には、大きく斬られた傷痕は嘘のようになくなっている。

痣も、傷もなくなったレインの肌はこんなにも美しいのだ。

レインは、美しい。

自分の腕の中でよがるこの美しい女は、一体誰を愛しているのだろう。
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