Butterfly
□After-4
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翌日、だいぶ体が動くようになったレインを連れて、エ―スは白ひげの元を訪れた。
「オヤジ! レインだ!」
「……」
常人の数倍はあるかという、その巨大な男は、通り名になっている白い髭をなびかせ、レインを見下ろした。
椅子に腰掛けているにもかかわらず、目を合わせる為にはレインは遥か上空を見上げなければならなかった。
「初めまして……お世話になっています」
「ふん……なかなかべっぴんさんだなぁ、エ―ス! お前の女か?」
途端に、周りのクル―達から冷やかすような声があがる。
「あ、いや、違うんだ! レインは俺の恩人で……!」
エ―スは、少し慌てた様子で言ったが、すぐにレインが口を挟んだ。
「それを言うなら、私の方だ! 何度も……何度も助けてもらった……」
「レイン……」
見つめ合った二人を、白ひげは少し呆れた顔で見て笑った。
「グララっ! お前ら、勝手にやってろ!」
「オヤジ……ッ」
エ―スは照れたように苦笑したが、レインは相変わらず白ひげの存在感に圧倒されていた。
これが、世界に名を轟かす海賊団の元締めか。
色んな海賊に会ったが、この男はやはり一線を画している。
白ひげは、未だ目を丸くしているレインをちらと見ると、今度は優しく微笑んだ。
「お嬢ちゃん、新世界は初めてだそうだな。怪我が治ったらエ―スにどこでも案内してもらいな……」
レインはその優しい眼差しに再度驚いたが、これがオヤジと呼ばれ、慕われる由縁だろうと思い、一人頷いた。
「しかし、レイン……。お前、どうやってここまで来たんだ?」
エ―スが不思議そうな視線を向けたので、レインは今までの経緯を話した。
「……つまり、海賊にわざと攫われその一味は即潰して、海軍の軍艦にうまく乗り込んだが嵐に襲われてたまたま流れ着いた、と……?」
レインはこくんと頷いた。
その途端、白ひげを始めとした船員は、笑い転げた。
「エ―ス! さすがはお前の女だな!」
「……」
やはり、笑われたか。
まぁ、自分でもよく辿り着いたと思ったが。
「まぁ、行きたい所決まるまでゆっくりしていけ」
「……ありがとう」
礼を述べて歩き出そうとした二人の背中に、白ひげがもう一度言葉を投げる。
「お嬢ちゃん……ティ―チの件では面倒かけたな」
「え……」
戸惑うレインに、エ―スが黒ひげの事だと説明をする。
しかし、レインが戸惑ったのは、白ひげの表情が少し曇った為だった。
仲間殺しが大罪だと言いながらも、やはり一度息子と認めた男が死ぬのは悲しいのだろうか。
なんだかそこには、とてつもなく大きな愛が感じられる。
レインの体調を気にして、エ―スはまた船室に連れ戻した。
「エ―スはいいな……。大勢の仲間に囲まれて……」
「レイン……」
レインは家族の愛を知っている分、寂しいのかもしれない。
それでも国の為に一人頑張ってきた。
しかし、信じた国は王国ではなく、人を殺して成り立った国だった。
レインの気持ちを思えば、もう再建する事はないのだろう。
どちらにしろ、賞金首となった今は国や親族に関わる事はできない。
レインは急に孤独に襲われたのかもしれなかった。
エ―スは思わずレインを抱きしめると、優しく囁いた。
「じゃあ、お前もここにいるか? ずっと……」