Butterfly

□After-4
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目を薄っすらと開けると、またベッドの上だった。

薄暗いこの部屋は、さっきの民家だろうか。

ふと横を見ると、一人の男が傍にいるのが見える。

寝ているのか、腕を組んで項垂れているようだ。



「……う……白ひげ海賊団は……?」


レインの問いかけに、その男は顔を上げた。


「安心しろ……。ここはその、白ひげ海賊団の船の中だ」

「!」


レインは体が痛むのも忘れ、飛び起きた。

その男が今言った事よりも、その声に聞き覚えがあったからだ。


「エ―ス……!」

「久し振りだな。レイン……」


エ―スだ。

レインと視線が合うと、にっこりと笑って見せた。


「まったく、無茶するぜぇ! 言ってくれたら迎えにいったってのに……」


少し呆れた様子で、エ―スはまた笑った。

その姿は、最後に見た時よりも更に元気そうだった。

あの後、傷口が開いたエ―スを、スタンレ―は無理矢理プレストンへと連れ戻した。

あの時の傷は、それほどに深かったのだ。

それなのに、自分の体を顧みずエースは駆けつけてくれたのだった。


「痛むか……?」


エ―スは、まだ笑顔が出ないレインを心配そうに見つめ、髪を撫ぜた。

傷が痛むと思っているようだ。

レインは首を横に振ると、その温かい体にしがみついた。


「レイン……」


一人でよくここまで来たもんだ。

きっと、心細かったに違いない。

エ―スはレインの体を優しく抱き締めた。


「……後で、オヤジに会わすよ。その為に来たんだろ?」

「うん……」

「だから、もう少し寝てろ。体中の骨にひびが入ってるらしいぞ……」

「うん……」

「あ、そういえば、お前これ知ってるか?」

「うん……ん!?」


エ―スは手配書をレインの眼前に突き出した。

レインは途端にエ―スの体を離し、顔だけ手配書に張り付けた。


「これは……!?」

「あれ……。やっぱ知らねぇのか。お前も立派なお尋ね者だ! ははっ!」

「……」

(なんて事だ……。しかし、いつの間に? つい先日まで海軍の船に乗っていたというのに……)


レインは、親切にしてくれていた海兵達の顔を思い浮かべた。


(スモ―カ―……、たしぎ……)


手配書を見つめたまま動かなくなったレインを、エ―スは面白そうに眺めている。


「しかし、あれだな。今頃きっと、おっさん達は泡喰ってんじゃねぇか? 『レイン様―ッ!? 』つって」

「!」


その時、レインに一抹の不安が過ぎった。


「エ―ス……懸賞金を懸けられた者の関係者はどうなる……?」

「ん―……さぁな。お前がもし世界的に悪名を轟かせるような事があれば、すぐ捕らえられるかもしれねぇが」

「……!」


レインはがっくりと項垂れた。


(まいった……。ここに来てこんな物が出回るとは……。いや、もしかして今だからこそか?)


自分が大人しくマスタ国に匿われていれば、起きなかった事態なのかもしれない。


「……」


レインは、項垂れたままで一段と暗い声を出した。


「一度懸賞金を……懸けられると……?」

「外されねぇだろうな。死なない限り!」


エ―スは事も無げに言ったが、レインはそれを聞いた途端、ベッドに倒れこんだ。


「お、おい! 大丈夫か!?」


それまで楽しそうだったエ―スだが、あまりのショックで気を失ったかと、少し心配になったようだ。

しかし、レインは笑っていた。

当たり前だ。

本当は軍艦を沈めたあの時にこうなるはずだったのだ。

今まで放っとかれてラッキ―だったと思うしかない。

レインはどこかすっきりとした気持ちだった。

これで、逆に進むべき道ははっきりとしたのだから、と。
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