Butterfly

□After-3
5ページ/6ページ


「なぁ……なんで海軍に入ったんだ?」

「海賊が、嫌いだからだ」


その一本調子な台詞にレインは吹き出しそうになった。

それはそうだろう。

好きならば海賊になっているはずだ。


「……しかし、海賊も似合いそうだな」

「はっ! 馬鹿言え!」

「だって……奴らはいつでも自由だ」

「!」


この女は、不意に見透かしたような事を言ってくる、とスモーカーは思った。

自分がこの組織の不条理にいい加減嫌気が差していると、知ってるのだろうか。

レインはベッドから下り、服を着る前に自分の胸元をちらと見た。


「もう、信じただろ?」

「……あぁ」


ロ―が言っていた事は、どうやら本当らしい。

ただ、今は何もない肌に見える。


「もう一つあったな……」

「え?」

「葉巻を吸わない時だ」


スモ―カ―はそう言うと、葉巻に手を伸ばした。

しかし、レインはその手を制した。


「そうか。じゃあ、もう少し我慢だな……」


レインはスモ―カ―の上に覆いかぶさると、再び唇を重ねた。









「レインさん、会いたい人ってもしかして……好きな人ですか?」

「え?」


たしぎが悪戯な笑みを見せながら言った。

唯一、この船の中で女同士の二人はいつの間にか仲良くなっていた。

しかし、それはたしぎが何も知らないからに他ならない。

未だにレインは海賊に攫われた悲運な一般人だと思っている。


「いや……。ただ、約束したんだ。会いに行くって……」


遠い海に視線を移したレインを見て、たしぎは、へぇ、と呟いた。

しかし、その言葉を完全に信じてはいないようだった。


「まぁどちらにしろ、もうすぐ新世界に入ります。よかったですね!」

「あぁ、長い事世話になったな」

「いえ、義務ですから!」


レインは、この船の中でよく笑っていた。

しかし、夜中船内が静かになった頃によく一人で海を見つめているのを、スモ―カ―は知っていた。


「……」

「大佐、本部には寄りますか?」

「いや……」

(どうせ言われる事は同じだ)


もうすぐ、か。

今さらながら、レインを海賊に会わせる為に行くというのは、果たしてどうなのだろう。

このまま別れればもう二度と会う事はないかもしれない。


「……ッ」


スモ―カ―はそう考えながらはっとした。


(なんだ……。今さら惜しくなったか。馬鹿な……)


レインを手元に置いておきたいという気持ちは、自分の意思とは裏腹に日に日に強くなっていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ