Butterfly

□After-3
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煙の先には見渡す限り海が広がっている。

先の長い旅だ。


(なぜ、俺がこんな目に……)


手の空いている部隊もいるはずなのに。

結局、本部はこの軍艦で支部まで送るようにと指示を出してきた。

恐らく、あの女にあまり関わりたくないのだろう。

そしてこの元凶の元締めは、というと、先ほどから自分の部下とはしゃいでいる。


「すごいですよ! レインさん! こんな美しい剣、初めて見ました!」

「ふふっ……そうか?」

「おい、たしぎぃ! その女と仲良くすんじゃねぇ!!」

「は、はい! すみません! スモ―カ―さん!」


スモ―カ―は、舌打ちをして船内に戻った。


「最近、スモ―カ―さんなんだかイライラしてるんですよね。でも気にしないでください!」


たしぎは微笑んだが、レインはというと、スモ―カ―の態度が可笑しくてたまらなかった。


「なぁ、さっき言ってた夢って……」

「あぁ、私は、悪党の手に渡っている名刀を全て回収するのが夢なんです! ……特にあの、ロロノア・ゾロだけは許せない!」

「え!?」


突如思いがけない名前が飛び出して、レインは耳を疑った。


「……あ。すみません! つい……。レインさんは知りませんよね。海賊の名前なんて……」

「……その男に何か、されたのか?」

「あぁ……いえ。ただ、女だからって馬鹿にするもんだから、頭にきて……」

「……」


ゾロがそんな差別を持っているとは知らなかった。

自分が知るゾロは、ぶっきら棒でも女子供には優しかったはずだ。


「レインさん?」

「……馬鹿にされたのか? 本当に」

「え? なぜですか?」

「……別に。それが本当なら、そいつは大した剣士じゃないな……」

「……」


レインは、それだけ言うと足早に船内へと戻っていった。





新世界か。

まぁ、奴らが行くとなればいずれ自分も行く事になるとは思っていた。

下見のつもりで行ってやるか。


「……で、何の用だ」

「気付いてたんなら、早く言え」


レインは室内へと入ると、勧められもしないのにソファ―にどかっと腰掛けた。


「なぁ、麦わらの一味を追っているのか?」

「当たり前だ。奴らは必ず俺が捕らえる」


さっきのたしぎの態度といい、どうやらこの部隊とは浅からぬ因縁があるようだ。


「そうか。しかし……奴らは手強いぞ」

「……知っているが、それが何だ?」

「――別に。それだけだ」


レインは立ち上がろうとしたが、スモ―カ―の言葉に引き止められた。


「奴らの居場所が知りたいか?」

「え……?」

「いつか、会いに行くつもりだろう」

「……」


しかし、レインは首を横に振った。

一体、どの面下げて会いに行くというのだ。


「……そうか。では、知りたくなったら俺を頼れ。俺は必ず奴らを追っている」

「スモ―カ―……」

「その時まで奴らが無事だったら、の話だがな」


それもそうだ。

こんな時代だから、また必ず会えるとは限らない。

しかも、彼らは自ら危険に身を投じている。

彼らは強いが、まだ若い。


「……」


黙りこくったレインをちらと見ると、スモ―カ―は煙を吐き出した。


「急に心配になったか。どうする? 行き先ならまだ変更可能だが……?」

「いいや! ……どちらにしろ、今は、会えない」


それは、会わす顔がない、といった方が正しい。


(ゾロ……今、どうしているだろう)


ラボルディ―で、あのまま別れたきりだ。

あの男はいつでも自分を求めてくれたというのに。

最低だ。最悪だ。


「……ッ」


今まで抑えていた気持ちが、すぐに会えるかもしれないと思った瞬間、溢れ出してしまいそうになる。


「あ? おい……」


レインは泣いていた。

なぜ泣いているのかは、自分にもわからなかったが。


「まいったな……」


突然泣き出したレインを前にスモ―カ―は本当に困った様子で、少し間を置いてから葉巻を置くと、煙のようにそろりと近づいてきた。


「少しだけだぞ……」

「!」


スモ―カ―は困惑した表情のままレインを両腕で優しく包み込んだ。

父親になった男が初めて我が子を抱く時のようなどこかぎこちないその仕草が、レインの心を逆に労わるようだった。


「煙いよ……」


レインは思わずその体にしがみついたが、涙はいつの間にか止まっていた。
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