Butterfly
□After-3
2ページ/6ページ
「いてて……あれ? 俺等は何を……?」
気を失っていた海兵達が起き出した。
「はっ! 大佐……あの……一体何が!?」
「……いや、問題ない。ちょっと船が揺れただけだ」
そう言うと、スモ―カ―は船室の一つへと入った。
「……大人しくしてるようだな」
「なぁ、それ咥えてないと真っ直ぐ歩けないのか?」
よほど、葉巻がお気に召さないらしい。
スモ―カ―は二つの葉巻のうち、一つを消してやった。
「俺の質問に答えろ……その答えによっちゃ、ただじゃおかねぇ!」
「……なんだ」
「麦わらの船に乗っていたというのは本当か?」
「あぁ。……しかし、一時手を借りただけだ」
「お前が会いに行こうとしているのは、海賊だな。誰だ?」
「……」
その質問には、レインは沈黙した。
その様子から、かなりの大物である事は間違いなさそうだ。
「答えられないか」
「まぁ、まず話を聞いてくれ……」
海軍にはあまりいい印象はなかったが、この男は少し違うかもしれないと、レインは思っていた。
どこから話すべきかと迷ったが、やはり、最初から話すしかなさそうだ。
「……本当なのか、その話は……!?」
「嘘をつく理由がない」
「……」
思いがけないようなレインの話に、スモーカーは目を見張った。
海軍が一国の戦争に関わっているなどとはまるで信じ難い、と思いかけて、スモーカーは少しの後に小さくかぶりを振った。
いや、そうでもないか、と。
貴族に頭が上がらない上層部ならやりかねないのかもしれない、と、スモ―カ―は煙と共に大きく息を吐いた。
「……」
(しかし、この女の話を全て信じるわけには………)
話に出てきた痣も傷も、もうこの女にはない。
唯一あるのはこの剣だけだ。
「信じられないか」
「……全部はな」
「では、戦ってみるか?」
「!」
レインは鞘から光る刃をちらと覗かせた。
二人しかいない室内に、ぴんと張り詰めた空気が漂う。
「……海兵が市民に暴力を振るう事は禁じられている」
「ふっ……ははっ! そうか」
苦々しい顔のスモ―カ―をレインは笑い飛ばすと、その目の前へと近づいた。
「――では、抱いてみるか?」
「あぁ?」
「その外科医が言っていた。体が火照ると、傷痕が薄っすらと浮かび上がる、と」
レインは試すような視線を向け、すぐに服を開こうとした。
しかし、
「やめろ」
スモ―カ―は、レインの両手を掴んだ。
「あんたは、もう過去のあんたじゃないはずだ」
「!」
「……とりあえず今の話は信じてやる。大人しくしていろ」
そう言うと、スモ―カ―はその部屋を後にした。
「ふぅん……」
海軍にもなかなかいい男がいるじゃないか、とレインは思った。
しかし、あの煙は慣れないな、と、再度顔をしかめた。