Butterfly

□After-1
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長い睫毛の下には影を落としている。

この男は整った顔をしているが、その表情の無さからはまるで綺麗な人形のような印象を与えた。

しかし、その冷淡な表情からは想像も付かないほど、ロ―の唇は熱かった。

この冷たく見えるものの内側には、もしかしたら迸るような熱いものを秘めているのかもしれない。

そのギャップに、レインは煽られた。


「は……あ……」


自然と息が漏れ、身を捩じらす。


「……」


ロ―は、傷があった箇所を愛おしそうに眺め、そこを強く吸った。


「……っ!」


もう何もないはずなのに、やはりそこだけ敏感な気がした。

レインの白い肌には、花が咲いたように赤い痕がいくつもできていく。

しかし、この行為は過去にされたことがある。

あれはまだ何も知らない、幸せな王女だった頃だ。


「……ロ―……あ……ッ」


ロ―はレインの命を救い、ジュ―ドの痕跡を消した。

そして、今している行為もきっと、治療の一つなのだ。

なぜなら、ロ―に抱かれる事でこれ以上ない程、わかってしまう。

ジュ―ドはもう、いないのだと。

ロ―は、レインを縛る全てを掻き消した。


「……」


レインを見つめる瞳には、先ほどのような闇はない。

黒く澄んだ湖に、自分一人だけが溺れているように見えた。

その自分は、涙を流していた。

決して悲しくはなかったが、あらためて突き出された現実を乗り越えるには、それは必要なものだった。


「なんだ……。泣くな」

「……泣いてない」


レインは涙を流したまま、ロ―を真っ直ぐに見つめた。

強い決意の光を放つその瞳から零れ続ける涙は、赤みが差す肌へと滑り落ちていく。

その一連の動作が、ロ―にはひどく扇情的に映った。


「……あぁッ!」


レインの中に一気にその身を沈めると、芯を激しく突き上げた。

堪らず閉じたレインの目からは、涙が飛び散り、キラキラと頬を光らせる。

ロ―はレインの体を抱き寄せ、濡れている頬を舐めた。

この女はもしかしたら、血よりも涙の方が似合うのかもしれない。

この美しい顔をもっと歪めてみたい、と。


「は……あぁっ……ん……」


この上擦って掠れた声を思わず独占したくなる。

しかし、だめだ。

自分はあの男のようにはならない。

ロ―はひょっこり顔を出しそうになる狂気を、それとは気付かれないように強引に押さえ込んだ。



レインはロ―の熱い体にしがみ付きながら、その肩口にキスをした。

その合間も絶え間なく息が漏れる。

しかし、途中でロ―の動き方が変わった。

それはまるで、自分の中の獣を無理になだめているかのようで、レインにはひどく苦しいもののように映った。


「……」


レインはしがみ付く腕に力を込め、ロ―の耳元で囁いた。


「だめ……もっと、壊……せ……ッ」

「!」


それを聞いた途端、ロ―の中で何かが弾けた。

レインを力任せに押し倒すと、今まで抑え込んでいたものの解放を自分に許可するように、激しく腰を打ちつけた。


「あぁぁッ! アァ……ッはぁっあッ……!」


先ほどにも増して熱くなったロ―の体の下で、レインは何度も顔を仰け反らせた。

この獣はきっと、ジュ―ドなのだ。

レインはこの暗い瞳の中で、涙を流しながら絶頂に達した。
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