Butterfly
□7.終わりの終わり
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「すごい……完っ璧な処置だ……!」
レインの傷を見て、チョッパ―はさっきから驚きっぱなしだ。
「包帯の巻き方も工夫してあったな……。レイン! お前、いい医者にかかったんだな!」
「あぁ」
「もう包帯じゃなくてもいいな。これでよし!」
チョッパ―は包帯の代わりにガ―ゼをあてた。
「ありがとう」
レインは手当てされた所を見つめながら、ハ―トの海賊団との日々を思い出していた。
「……」
「ん?」
レインはチョッパ―をしばし見つめると、飛び掛るように抱き締めた。
「お、おい! レイン!」
「やっぱり、ふわふわだ……」
頭の端で、やはりベポを連れてくるべきだったかな、と思った。
一度、チョッパ―と会わせてみたいもんだ。
ロ―とも、同じ医者として話が合うかもしれない。
「ふふ……何してんの?」
気付くと、ナミがドアから顔を出して笑っていた。
「ねぇ、治療は終わったんでしょ? レイン! ちょっとこっち来てみて!」
ナミは悪戯な笑顔を浮かべると、ウインクをしてみせた。
「なぁ、おっさん。アンガスって奴はなんで戦争ばっかしてんだ?」
「それは……自分の支配地を広げる為だと思いますが」
「でも、元々でかい国なんだろ?」
「えぇ。確かに最近頻発している戦争はどこかおかしい……。何か目的があるのかどうかわかりませんが、とにかく、あの男が関わっている事は間違いありません」
「ジュ―ドって奴か……」
「えぇ」
「……」
ゾロがその名にぴくりと反応した。
「国というのは、一つのもので成り立っている訳ではありません。他国との交易や、密接な繋がりがあるからこそ、自分の国を守っていけるのです。ですから、現在自分の利益ばかりを追うラボルディ―には非難の声も少なからず上がっています。しかし、あの国に逆らえば恐らく、スカルトのように……」
「潰されるって訳か!」
「勝手だなぁ、そりゃ」
「はい。しかし、わからないのは、友好な関係を続けていた国でさえも、ある日一方的な攻撃を受けて壊滅に追い込まれた、という事実なのです」
「……そんな事したら、自分の国も危うくなるんじゃねぇか?」
「えぇ……。もはや、自殺行為と言うしか……」
「……」
破滅に向かうジュ―ドには、生きた世界はいらないのかもしれない。
その王と組んで世界を滅ぼす気でいるのか。
自分の故郷も含む、この美しい世界をそんな理由で潰される訳にはいかない。
全員が沈黙した。
そこにはいつもの陽気な雰囲気はなく、皆、意を決したような面持ちだった。
すると、そこに甲高い声が響いた。
「ゾロ―! ちょっと来て〜!!」
ナミだった。
「あ? なんだ、今大事な話を……」
「いいから早く来て!!」
「……」
「ゾロ……早く行った方がいいぞ。お前、ナミに借金あったろ?」
「う……」
ゾロは舌打ちすると、しぶしぶ立ち上がった。
「ちょっと、部屋に忘れ物したから取ってきて?」
「はぁ!? お前ふざけんな! 人をなんだと……!」
「いいから早く!! ……それとも、この間のお金この場で全額返せんの?」
「ちっ……忘れ物ってなんだ?」
「行けばわかるから! じゃあね」
ナミは自分の用件だけ言うと、足早に去っていった。
「なんだ、あいつ……」
ぶつぶつ言いながら、ゾロは船室のドアを力任せに押し開けた。
「きゃあ!」
「!!」
そこにはレインがいた。
突然ドアが開いた事で驚いたようだ。
しかし、ゾロの方はというと、それを遥かに凌ぐほど愕然としていた。
レインは普段のような姿ではなく、若い娘が着るようなワンピ―スを身に着けていたのだ。
初めて見るそれの裾から、白くて細い脚が覗いている。
「なんで……ゾロが?」
「い、いや……ナミに言われて……」
しどろもどろのゾロの反応に耐えられなかったのか、レインは顔を背けた。
「見るな……これは、ナミに言われて無理矢理……」
その横顔は、みるみる朱に染まっていく。
初めて見るその姿や仕草は、ゾロの理性を容易く奪っていった。
「めちゃくちゃ可愛い……」
「え……?」
「……はっ!」
(いかん……俺はなんて浅い言葉を発してしまったんだ……!)
ゾロは一つ咳払いすると、なんとかいつもの表情を作った。
「あ〜、いや。そういうのも、たまにはいいな」
「そ、そうか……? 嫌だって言ったんだけど、この前約束破ったでしょ、って言われてしょうがなく……」
ナミの言いそうな事だ。
しかし、今ここに自分を呼んだのは、ナミの憎い演出だろうとも思った。
「……」
ゾロはレインにゆっくりと近づきながら、これでまたナミに借りができたな、と溜め息をついた。
またしばらくこき使われるだろうが、この姿を見れるならそれでもいいか、とも思った。
そして、まるで初めて抱く時のようにそっと手を回し、その身を包んだ。