Butterfly
□7.終わりの終わり
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レインは、この男を愛していた。
いつも海を眺め、想っていたのはジュ―ドの事だった。
夢にうなされ、目覚めて想うのはジュ―ドの事だった。
否定したくて、何度も男と寝た。
しかし、常に殺したいのは、そして、殺されたいと思うのはジュ―ドしかいなかった。
異常な執着とも言えるそれは、人から見れば歪んだ愛なのかもしれない。
しかし、どこかでわかっていた。
プレストンで老婆に手をさすられた時から。
そして、ロ―が包帯を取った時にそれは確信に変わった。
腕の痣は、あれ以来広がるのを止め、どんどんその範囲を狭めていたのだ。
そしてその行方は、ジュ―ドと剣を交えた一太刀目からレインに嫌というほど知らしめた。
そのジュ―ドの剣には、以前のような漲る力は無かった。
腕は痛みに襲われようとも、ジュ―ドにはこの剣がない。
ジュ―ドはあくまでも、この剣で殺されたかったに違いない。
そして、自分で死ぬのではなく、レインに殺される事を望んだ。
そうする事で、レインの命を救ったのだった。
「……」
ゾロは涙が止まらない様子のレインの背中を黙って見つめていたが、その時、継続的な広間の揺れが、一際大きくなった。
「!」
「危ねぇっ!!」
「レイン様!!」
天井から大きく崩れだし、ゾロはレインを咄嗟に抱えた。
「おい、やべぇぞ!! みんな出ろ!!」
既に廊下の柱は倒れ、この城はもうじき倒壊するであろう姿が、容易に想像できた。
大きな塊が道を塞ぎ、砂ぼこりで視界が悪戯に霞む。
「くっそ……! みんな、来ぉぉ―いっ!!!」
ルフィが素早く伸ばした片腕が皆を巻き取り、もう一つの腕が外の壁を掴んだ。
すると、まるで巻戻るかのように景色を一気に逆行し、全員が外へと飛び出す事に成功したのだった。
「イテっ! ……さ……さすが、船長……」
「あ……っ!」
その瞬間、この強大に聳えていた城は、二人の城主を呑み込みもろくも崩れ去った。
「っ……」
「あ、危なかったぁ―っ!!」
「……」
まだ涙で顔を濡らし、放心している様子のレインを、ゾロはそっと降ろした。
なぜか、レインの手にはしっかりと例の剣が握られている。
いつの間に取ったのだろうか。
へたりと座り込み、俯くレインをしばし見つめると、ゾロは背中を向けた。
「レイン……俺は待つ。だから次会った時、お前は……本当に俺のものになれ!」
「……」
レインに反応はなかったが、ゾロは構わずその場を離れた。
港の方へ一人歩きながら、まったく、とゾロは思った。
(俺の勘は、こんな時ほどよく当たる………)
ゾロは息を吐くと、ずっとつかえていたものが取れたような、どこか晴々とした気持ちになった。
そして、レインがよくそうしていたように海を見つめ、独りきりで小さく笑った。