Butterfly

□7.終わりの終わり
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「レイン……!」

「……」


あれほど恨んでいたはずなのに。

この男を殺すことはできない。

思えば、この男がしてきた事は復讐であった。

この城は自分の兄に滅ぼされた。

そしてこの剣に自分の運命を狂わせれた。

ただ、同じ事をしただけの事なのかもしれない。

やり方は間違っていても、その気持ちは痛いほど理解できた。

一歩間違えば自分だってこうなっていたかもしれないのだ。


「おいっ! レインーっ! なんでとどめ刺さねぇんだ―っ!!」


ルフィが焦れたように叫ぶ。


「お前、この男を倒す為に頑張ってきたんだろ―っ!! お前はなんも間違っちゃいねぇぞ―っ!!」

「……ルフィ」


ナミもルフィと気持ちは同じだったが、レインの様子に一つの可能性を見出していた。

今まで誰にもわからない事だった。

もしかしたら、本人も気付いてないのかもしれない。


「……」


ナミは、目を閉じて黙ったままのゾロに目を向けた。


「甘いな……」

「!」


ジュ―ドは、剣を握るレインの手にそっと触れた。

昔から変わらないその手の温かさに驚き、レインはびくっと体を強張らせる。


「お前の剣はやはり……『守る剣』なのだ」

「……ッ!」

「レイン! 危ねぇ―っ!!」


ジュ―ドは、半ば力の入ってないレインの手を掴んだまま、素早く動かした。

それはまさに、一瞬の出来事だった。

ジュ―ドに操られた剣は、レインが握ったまま、何かを貫く。


「……!」


それは、レインがどうしても貫けなかった、ジュ―ドの心臓であった。

少しの間もなく、そこから勢いよく血が吹き出る。


「!?」

「いやぁっ!! ジュ―ド!!」


レインは咄嗟に剣を引き抜いたが、それは既に遅いようだった。


「ふ……すまんな。お前に任すには、時間が無さ過ぎた……」

「あぁ……ジュ―ド……ジュ―ド!」


レインは必死に血を止めようと押さえたが、それは指の間から、絶え間なくこぼれ続けている。

泣きながら取り乱すレインの頬に、その温かい手が不意に触れた。


「!」


その昔のような優しい仕草に、レインは思わず息を呑んで見詰める。


「私は……お前がその剣を手にしてるのを目にしてから、いつかこの広間で殺される事を願っていた」

「!?」

「あの、美しい母のように。この剣に血を吸われたかった……」


ロ―が言っていた事は本当のようだった。

ジュ―ドはあの場で剣を持たずに逃げ出した事を、今も尚悔やんでいると。

もしかしたら、その時から既に、死に魅了されていたのかもしれない。

この城で自分だけ、生き残った時から。


「だめ……ジュ―ド……いや……」


次第に血の気が失せるその手を握り締め、レインは子供のように泣きじゃくっていた。


「ふ……やはりお前は――……甘い」


そのすっかり冷たくなった手が、やがてレインの手からするりと滑り落ちた。


「!」


ジュ―ドは微笑んだままゆっくりと目を閉じると、そのまま静かに動かなくなった。


「あ……」


しかし、その顔はどこか満足気にも見える。

まるでとても幸せに生きた、人間の最期のように。


「う……うわあぁぁぁ―っ!!!」


レインはジュ―ドにしがみ付き、取り乱しながら泣き叫んだ。


「レイン……」

「……」

「あ……、ゾロ……?」


ゾロはその二人に近づき、ジュ―ドの服の腕の部分だけを、そっと刀で切り裂いた。


「あれは……!!」

「レインと同じ……!?」


そこには、レインの腕にあったものと同じ、血の色をした痣が、ジュ―ドの腕を丸々と呑み込んでいた。


(やはり、そうか……)


ゾロはジュ―ドに泣きすがるレインの腕をちらと見た。

破れた箇所から覗く皮膚は眩しいほどに白く、そこに確かにあった痣はまるで悪夢が去るかのように消えていた。

それは、すべての呪いをジュ―ドが引き受け、レインの命を救ったのだと。

レインが愛したのは、間違いなくこの男なのだと、告げているように。
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