Butterfly

□7.終わりの終わり
17ページ/20ページ


普段なら絶対に一人で辿り着けないかもしれないが、幸運にもその広間はすぐ見つかった。

既に暗くなった廊下に大きな扉が開け放されており、そこら一帯だけが明るかった為だった。

しかし、やはり中はだいぶ崩れてきているようだ。

ゾロは最悪の事態も頭に入れながら、その扉の中に足を踏み入れた。


「!」


二人で剣を交えるには広すぎるその空間は、瓦礫や落ちてきた照明のお陰で多少狭く感じられた。

だが、寄り添うように重なる二人の影は、ぴくりとも動いてない。


「く……!」


剣を振り上げているレインの方が、丸腰で座り込んでいるジュ―ドよりも遥かに苦しそうに見えた。

剣を握るその手はがくがくと震えている。

もしかしたら例の痣がまた痛みを走らせているのだろうか。

ちょうどレインの痣がある箇所は、斬りつけられたのか、破れている。

しかし、ゾロのいる所からはその腕の状態はよく見えなかった。


「……おい! どうした!?」

「! ……ッ」


ゾロの声には微かに反応したが、レインはその体勢から動こうとはしなかった。

いや、もしかしたら傷を負って動けないのかもしれない。


「レインちゃん!」

「レイン!」


そこに、仲間が後を追ってきた。

皆、一様にその場の光景を見て立ち止まった。


「レイン……」


ジュ―ドは、こちらをちらと見ると、


「応援が来たようだぞ……。どうする?」


と、苦しげなレインを、まるで心配しているような声を出した。


「……ッ!」


なぜ、この手は動かないのだろう。

いや、自分はなぜ、動かそうとしないのだろう。

これで自分を縛っていたものは終わる。

仇も取れる。

もしかしたら幼い頃のように、意識せずとも笑えるようになるかもしれない。

深い睡眠をまた取れるようになるかもしれない。

この男の呪縛とは、これきりおさらばだ。


「……」


レインはなんとか動けと手に命令し、再度力を込めた。

そして、両目を固く閉じ、意識を集中させ、ジュ―ドの心臓目がけ、剣を一気に振り下ろす。


「!?」

「あ……!」


だが、その刃は寸での所でぴたりと止まった。

レインはぶるぶると剣を震わせ、その閉じた目からは涙を溢れさせている。


「……」


ゾロは、黙って目を閉じた。

これは、おおよそ予想していた事でもあった。


「できない――……ッ!!」

「!?」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ