Butterfly
□7.終わりの終わり
16ページ/20ページ
燃え上がる怪物は苦痛にのた打ち回り、左の塔に手をかけ腕を回すと、抱き締めるようにして上に持ち上げる。
「!」
大地を揺らしながら、その巨大な塔は怪物によっていとも簡単に引っこ抜かれた。
降り注ぐ瓦礫の山が少し当たっただけでも、それは致命傷になりかねない。
「おい、お前ら下がれ!」
「危ねぇっ!」
「……くッ!」
その時、エ―スが膝をついた。
「エ―ス様! ……やはり、まだ体が!?」
「うぐあぁぁぁぁっ!!」
怪物は引っこ抜いた塔をぶんぶんと振り回し、逃げ遅れた兵士は蟻を蹴散らすように無力に飛ばされていった。
「エ―ス様! こちらへ!!」
スタンレ―は、エ―スを城から離れた所へと連れて行った。
「きゃあっ!」
塔の欠片が闇雲に襲い掛かって来て、ナミは頭を抱え込んだ。
「ナミ! こっち来い!」
その時、怪物が背にしていた城壁の穴から、一人の男が飛び出した。
「てめぇ……俺のナミさんに、何しやがんだ―っ!!!」
「!?」
「サンジくん!」
サンジの蹴りは怪物の横顔を捉えた。
ただでさえバランスが取り辛い体に加え、振り上げたままの塔の重みと蹴りの衝撃で、怪物はそのまま無様に倒れた。
その巨体に、同じくらいの大きさの塔が覆い被さる。
まるで地震のような衝撃に、城はまたしても大きく揺れ、さらにひびが広がるのが見える。
もう中は崩れてきているかもしれない。
(レイン……まだ出てこないのか!?)
「くそ……!」
「おい! マリモ!! てめぇは先に中入ってろ!!」
「あぁ!? 突然出てきて何言ってやがる!」
「そんな心配そうな顔でいられちゃ邪魔だっつってんだよ!!」
「誰が邪魔だ! こらぁ!!」
「だから、おまえらこんな時に……」
いつものように怒鳴りあう二人の後ろで、塔の下敷きになっている獣の腕が、またぴくりと動いた。
「!」
「ぐぐぐぐ……!」
塔が背から転がり、怪物は残りの力を振り絞ってまた起き上がろうとしていた。
炎で身は爛れ、嫌な臭いがまだそこら一帯に充満している。
尾は斬られ、夥しい量の血を流し続けている。
それなのに起き上がり殺し破壊する事を止めようとはしないのだ。
それはもう、生への執着なのか、死への執着なのかわからなかった。
「……」
ルフィはその姿に、病に伏せながら戦争を続ける王の姿を重ねた。
――楽にしてやろう。
あの王もきっとそれを望んでいた。
「お前は……」
「もう……」
「起きてくんな―っ!!!」
ルフィ、ゾロ、サンジは、一斉に攻撃を繰り出した。
「!!」
起き上がろうとしていたそれは、変な体勢のまま再度倒れ、その身を城に埋めた。
その巨体はようやく沈黙したようだった。
しかし、また破損した城はもう持ちそうになかった。
上の方から性急に崩れて始めてきている。
「ち……!」
ゾロは、降り注ぐ瓦礫を避けながら、城内に素早く身を滑り込ませた。