Butterfly

□7.終わりの終わり
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「うぐぎぎ……!」


怪物は背中を押さえながら、殺意の籠もった瞳で塔を振り返った。

そして、その巨体からは想像できないほどの素早い動きで立ち上がり、塔に向かって滑るように蛇行してみせる。


「うわっ! こ、こっち来んな!」


ウソップは苦し紛れに砲弾を放つが、怪物は腕で簡単に払い飛ばした。


「ぎゃ〜っ! こっちに飛んできたぞ!!」


それは逃げ惑っていた兵士達の群れに当たり、爆発する。


「ウソップ! だめよ! 逃げて―っ!!」


怪物はそのままの勢いを殺さず、肩で塔に猛進した。


「ウソップ―っ!!」


その巨体は塔に埋まるようにめり込み、城全体を大きく揺らす。


「……う……」

「あそこだ! 何とか生きてるぞ!」


ウソップの長い鼻は折れ曲がっていたが、建物に挟まれながらも辛うじて息はあるようだった。

しかし、怪物は一旦身を引くと、今度は鱗で覆われた尾を振りかざした。


「おい、やべぇ!! あいつ、動けねぇぞ!!」

「いやぁ! やめて―っ!!」

「くそ、間に合わねぇ……!!」


懸命に駆け寄るサンジの目の前で、怪物はその長い尾をしならせ、動けないウソップに襲い掛かった。


「……!」


ナミは咄嗟に口を覆い、身を強ばらせた。


「……!?」


しかし、ウソップどころか、塔はびくともしていなかった。


「……あ!」


塔にぶち当たったはずの怪物の尾は、一瞬で野菜か何かのように見事な輪切りになっていたのだ。


「ゾロ!!」


突如城から飛び出てきたゾロが、自分の斬ったものを見て驚く。


「なんだ!? こりゃ……」

「ぐおあぁぁぁ〜っ!!」


怪物は体を支えるものを失い、大きな地響きとともに仰向けに倒れた。

と、そこに、唸る怪物に向けて城の窓から声がした。


「うっわ〜! なんだお前? はっきりしねぇ奴だな〜」


「……ルフィ!!」


ルフィは、苦し気にのたうち回る怪物を見下ろし興味深い視線を送っていたが、不意に崩れた塔に目をやった。


「あ! ウソップ!! 大丈夫か!?」


その問いに、ウソップを助けに行っていたチョッパ―がかわりに答える。


「……気失ってるけど、大丈夫みたいだ―っ!」


皆、胸を撫で下ろした。


「よかった! ……って、遅いわよ、ルフィ! どこ行ってたのよ!!」

「悪ぃ、悪ぃ! だって、今病気のおっさんがよぉ……」

「くらぁ! エロ剣士!! てめぇはレインちゃんとこ行けっつっただろうが!!」

「うるせぇ! 中が片付いたから来たんだろうが!! 俺に指図すんじゃねぇっ! このエロコックが!!」

「……」


一足遅れて港から来たスタンレ―とエ―スは、一味のやり取りを見て少々言葉を失った。


「ほんとに、この人達は……」

「あぁ……まったくだ」


しかし、二人は顔を見合わせて笑った。


「うががが……!」


その時、怪物が城を支えにまた立ち上がろうとしていた。


「!」

「……」


ルフィの頭に、アンガス王が言っていた事がよぎる。


「おい、お前! さっきおっさんが言ってたんだ……お前を倒せって!!」


怪物は、途端にルフィを睨み付けた。

そして、牙がびっしりと生え揃った口を大きく開けると、ルフィに向かって何かを吐きかけた。


「危ねっ!」


ルフィは窓から咄嗟に飛び出した。

しかし、城壁にぶちまけたそれは、そこら一帯を溶かすと、即座に蒸発した。

溶けて無くなった所から上が、更にひび割れてぐらつく。


「なんだ!? ……毒か!」


体が思うように動かない怪物は、もう一度ルフィに向けて口を開いた。


「てめぇそれ、止めろ!!」


サンジが素早く動き、怪物の後ろから首に蹴りを入れた。


「ぐが!」


怪物は思わず口を閉じたが、苦し紛れにサンジの脚を掴み、そのまま城壁に叩き付けた。


「ぐあっ!」

「サンジ!!」


城壁はサンジを呑みこみ、がらがらと崩れた。

毒で溶けた箇所とその新しい穴はひびで繋がり、屈強に聳えていた城は全体が細かく震えだした。


「お前、おれの仲間に何すんだ―っ!!!」

「!?」


ルフィから伸びた腕は無数の拳を繰り出し怪物を痛めつけたが、体勢を崩したその巨体がまたしても城を大きく揺さぶった。

間一髪、ウソップを背に乗せたチョッパ―が出てくると同時に、右の塔は穴が開いていた箇所からビキビキと割れていき、腹に響くような振動をともなって横に倒れた。

右の塔は砂ぼこりを巻き上げ、その場にいる人間の足元を悪戯に揺らす。


「あ、危ね―っ!!」

「あ……悪ぃ。チョッパ―」

「ちょっと、ルフィ!! 中にはまだレインがいるのよ!! このままじゃ城が……!」


ひびは生き物のように城全体を這っていった。

大きな衝撃があと何度か加わると、城自体が本当に危ないかもしれない。


(レイン……!)

「おい! さっさと片付けるぞ!!」


ゾロが剣を構えると、同時にエ―スが炎をその手に纏わせた。


「昔から言われてるだろ……獣には火が一番だ!」

「!」


ゾロはエ―スの方をちらと見ると、了解したように、そのまま怪物に突っ込んでいった。

そしてゾロが刀を振り上げた瞬間を見逃さずに、エ―スはそれに炎を乗せた。


「ぐぎゃあぁぁぁぁ〜っ!!!!」


炎を纏った刀は怪物肩に深く食い込み、その巨体を燃え上がらせた。

エ―スの言った通り、その効果は絶大のようだ。

今までの攻撃にはどこか鈍感だった怪物も、これは堪らんというようにその身を捩じらせ、狂ったように痛みと熱さに悶えている。


「お―っ!! かっこいいっ!!」

「……ッ!?」


炎を纏った剣というのは、幼い頃から憧れた夢のような剣の一つではあったが、


「……熱ぃ―っ!!!」


現実は、とても手が熱かった。
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