Butterfly

□7.終わりの終わり
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「――わしを、殺すか?」

「……いいや」


そこには、世界を滅ぼすどころか、自分の命が今にも尽きてしまいそうな老人が寝そべっていた。

その体は痩せ細り、衣服からわずかに覗く皮膚からは紫色の斑点が見えている。

ルフィにはそれが何なのかわからなかったが、老人の様子から、とても良くないものだという事はわかった。


「そうだろうな……。わしはもうすぐ、殺すまでもなく死ぬのだからな」

「……」


老人はそう言うと、薄っすらと口元を歪めた。


「……なんで、戦争ばっかしてるんだ?」

「ふっ……さぁ……なぜだろうな。今となってはもうなぜ争っているのかもわからん……。ただ、自分が死ぬのがわかってからは、闇雲に領土を広げる事だけに躍起になっていた」

「……」

「もしかしたら、世界を道連れにしたかったのかもしれんな……」


老人はそう言うと、力無く目を閉じた。

ただ目を開いていることでさえ、この老人の体力を奪っているのかもしれない。


「ジュ―ドって奴、どこ行ったか知らねぇか?」

「ジュ―ドか……城のどこかにいるだろう。奴を殺すつもりか?」

「いや、レインに会わせるんだ!」

「レイン……クライズメインの王女か。……ふふ。どうやら今日はジュ―ドが待ち望んだ日らしい……」

「……?」


老人はもう一度目を開くと、ルフィを視界に捉えた。


「海賊坊主……お前にこの城が落とせるか? ……わしからの冥土の土産だ。……外を見ろ」

「!?」


その時、窓の外から城全体を揺らすような、異様な叫び声が聞こえた。


「なんだありゃ!?」

「……あれを倒し、この城を崩壊させろ。そうしなければ、ジュ―ドは止まらん……」


老人はまた目を閉じ、沈黙した。

ルフィはけたたましくドアを開けると、風のように飛び出していった。

廊下を走り窓から外に出る時にふと、あの老人はもしかしたらもっとずっと若いのかもしれない、と思った。


「……」


ルフィが出て行った後、アンガス王は、ぼやける視界で空を見た。

いつからこんな風になってしまったのだろう。

この城に移り住んだ時からだろうか。

それともあの男、ジュ―ドに会った時からだっただろうか。

昔は自分の国さえ守れていれば、それでよかったというのに。

城から空を眺めるのが好きだった。



しかし、その目に映る空は次第に色を失った。

そしてその視界はゆっくりと閉じられ、もう一度開く事はなかった。
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