Butterfly
□7.終わりの終わり
12ページ/20ページ
「――わしを、殺すか?」
「……いいや」
そこには、世界を滅ぼすどころか、自分の命が今にも尽きてしまいそうな老人が寝そべっていた。
その体は痩せ細り、衣服からわずかに覗く皮膚からは紫色の斑点が見えている。
ルフィにはそれが何なのかわからなかったが、老人の様子から、とても良くないものだという事はわかった。
「そうだろうな……。わしはもうすぐ、殺すまでもなく死ぬのだからな」
「……」
老人はそう言うと、薄っすらと口元を歪めた。
「……なんで、戦争ばっかしてるんだ?」
「ふっ……さぁ……なぜだろうな。今となってはもうなぜ争っているのかもわからん……。ただ、自分が死ぬのがわかってからは、闇雲に領土を広げる事だけに躍起になっていた」
「……」
「もしかしたら、世界を道連れにしたかったのかもしれんな……」
老人はそう言うと、力無く目を閉じた。
ただ目を開いていることでさえ、この老人の体力を奪っているのかもしれない。
「ジュ―ドって奴、どこ行ったか知らねぇか?」
「ジュ―ドか……城のどこかにいるだろう。奴を殺すつもりか?」
「いや、レインに会わせるんだ!」
「レイン……クライズメインの王女か。……ふふ。どうやら今日はジュ―ドが待ち望んだ日らしい……」
「……?」
老人はもう一度目を開くと、ルフィを視界に捉えた。
「海賊坊主……お前にこの城が落とせるか? ……わしからの冥土の土産だ。……外を見ろ」
「!?」
その時、窓の外から城全体を揺らすような、異様な叫び声が聞こえた。
「なんだありゃ!?」
「……あれを倒し、この城を崩壊させろ。そうしなければ、ジュ―ドは止まらん……」
老人はまた目を閉じ、沈黙した。
ルフィはけたたましくドアを開けると、風のように飛び出していった。
廊下を走り窓から外に出る時にふと、あの老人はもしかしたらもっとずっと若いのかもしれない、と思った。
「……」
ルフィが出て行った後、アンガス王は、ぼやける視界で空を見た。
いつからこんな風になってしまったのだろう。
この城に移り住んだ時からだろうか。
それともあの男、ジュ―ドに会った時からだっただろうか。
昔は自分の国さえ守れていれば、それでよかったというのに。
城から空を眺めるのが好きだった。
しかし、その目に映る空は次第に色を失った。
そしてその視界はゆっくりと閉じられ、もう一度開く事はなかった。