Butterfly
□6.死の外科医
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「おい、なんとかならねぇのか!?」
「なるわけないでしょ! あんた、あの軍艦の数見たの!?」
「お、お、お、おい、ゾロ!! 落ち着いて聞け! 俺は、あの島に入ったら死ぬ病なんだ……!」
その時、軍艦の群れを黙って見ていたサンジがぽつりと言った。
「でも……レインちゃんはあの国に入る事ができたのか? どう見ても好戦的な雰囲気だが……」
「……」
「でも、レインは海賊じゃねぇぞ?」
「海賊じゃなくても、味方以外は入れそうもないわよね……。エ―スからも、レインの情報は聞けなかったし。結局、どこにいるのかは……」
エ―スの状態は酷く、口はしばらく利けそうもなかった。
船に乗せる状態ではなかった為、ディアナに任せ、プレストンで治療を続ける事となっている。
「そうだぜ、ゾロ! きっとレインもあの国には入ってねぇって! だから何も見なかった事にして、ここはひとまず退散してだなぁ……」
あまりの恐怖に腰が引きまくっているウソップに構わず、ずっと押し黙っていたスタンレ―が顔を上げた。
「私は……昔海軍に在籍していました」
その言葉に、その場にいた全員が振り返る。
「なんだ、突然!?」
「おっさん、まじか!?」
「えぇ……。そのお陰で、元部下から色々な情報を聞き出す事ができていたのですが……。実は、最近連絡が途絶えてしまって……」
「それって……」
「えぇ。私の存在を感づかれたのかもしれません。部下の安否が気がかりですが……」
「なんで、海軍辞めたんだ?」
ルフィが何の気なしに聞いた。
「え……今、そこ聞くか!?」
「……ある戦争で、クライズメインの王に命を救われたのです。私はすぐに海軍を辞め、あの方の為に残りの人生を捧げようと誓いました」
そこまで言うと、スタンレ―は少し表情を曇らせた。
その国も王も、今はもうないのだ。
「……」
「しかし、部下からの最後の情報によると、一週間ほど前、鷹の目のミホ―クが一隻の海賊船と接触したのが目撃されています」
「!」
「海賊船!?」
「えぇ……。その船にレイン様は乗っているかと。ですから……」
「レインも入国できてない可能性が高いって事ね?」
「えぇ」
「しかし……だからといって諦める事にはなんねぇだろ」
「あの国は陸からは渡れない……。どうしても船で入らなきゃならないわ」
「そうです。しかし、海軍は国の周りを固めており、軍艦を奪おうとすればすぐに見つかってしまうでしょう……。ですから、恐らくレイン様は一旦他の国に向かったはず!」
「他の国……」
「えぇ。ラボルディ―の船を手に入れるとしたら、今戦っている相手の国、スカルトに行くのが確実でしょう。しかし、ラボルディ―程強大ではないとしても、スカルトも今は戦争中……。上陸できるかどうか……」
「なんだ。そんなの、してみないとわからないだろ?」
ルフィが事も無げに口を開いた。
「ルフィ……」
「行くっきゃねぇな」
「お、おい……もうちっと待てば、戦争も終わって、すんなり入れるようになるんじゃねぇか?」
「では、スカルトまでの針路を説明します」
「おっさん、無視か!?」
しかし、どうにか危険な道を回避出来ないかと考えるウソップにも、本当は重々わかっていた。
一人の男の手によって、世界が破滅の道に向かっている事を。
もうレインには時間がない、という事も。