Butterfly

□5.火拳
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三人は城を出た。

エ―スはずっと押し黙っているレインを見つめていた。


「……」


レインはどうするのだろう。

自分の命か。愛する者の命か。

どちらにしろ、共に生きる事は叶わない。

レインはまた自らの命を絶とうとするのではないだろうか。

まるで、おとぎ話の人魚姫だ。


「……」


その時レインがふいに足を止めた。

エ―スは、レインがまた剣を抜くのではないかとひやひやしたが、その表情は至って冷静であった。


「スタンレ―……。お前はもう私に仕える必要はない。好きな所に行くがいい」


レインは表情を変えぬまま、感情を抑えたような声で言ったが、スタンレ―は血相を変えて言い返した。


「レイン様! 何をおっしゃいますか!! ベアトリー家の歴史がどうであれ、私は国王様に命を救われた身……! 一度は死んだも同然です! その命をどう使おうが私の勝手ではないですかッ!」


「……」


スタンレ―は顔を真っ赤にして捲くし立てたが、レインは相変わらず前を向いて黙ったままだった。


(レイン………)


レインはスタンレ―を傍におくのが辛いのではないだろうか。

できれば一人でいたいのかもしれないが、そんな危険な事はさせられない。

どの道、今の状況では幸せな結末にはなりそうもない、とエースは思った。


「じゃあ、俺と行くか? レイン!」

「……」

「エ―ス様! しかし……!」

「おっさんは調べたい事があんだろ?」


確かに、スタンレ―はもう少しこの城に留まろうと思っていた。

エ―スは腕も立つ。

自分が傍にいるより安全かもしれないが。


「……」


苦悩の表情のまま固まるスタンレ―をそのままに、レインはまた歩き出した。


「レイン様! 私に何か他にできる事は……!」


レインは静かに振り返ると、スタンレ―の腰にぶら下がっている手錠をちらと見た。

町の警備もしていたスタンレ―は、昔の癖で常に手錠を携帯していた。

片腕になってからはそれも使う事はなくなっていたが。


「では、それを……」


レインの痣は既に肘の辺りまで伸びており、これが暴れ出せばロ―プで縛るくらいではもうだめかもしれない。


「レイン様……」


途端にスタンレ―の顔は崩れていった。

その顔を見て、レインは最後に笑うと、手錠を受け取った。
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