Butterfly
□5.火拳
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ディアナの後ろについて、地下の薄暗く長い廊下を歩く。
「最初に言っておくが、私の母は不吉な事しか予言できん……」
「……」
「アンガス王然り……他の者にも不吉な予言をし、そして必ずその通りになった」
(魔女………)
ディアナは一つの扉の前で止まった。
「先の騒ぎで残ったのは私と数人の侍女……、そして母だが……」
そこまで言うと、ディアナは黙って重苦しい扉を開けた。
その部屋は薄暗いが他の部屋と変わりない内装で、地下牢のようになっているのかと思っていたレインは驚いた。
奥のベッドの中に例の老婆の姿はあった。
しかし、その姿はもう息は絶えんというほどに弱々しいものに見える。
「ジュ―ドに……?」
「……」
ディアナは黙って頷くと、レインの手を引いて奥に連れて行った。
「……お譲ちゃん……待ってたよ……」
「……」
外で会った時よりかなり弱っている様子の老婆の頬に、レインは左手でそっと触れた。
「……違うだろう。もう一つの手だ……」
レインはスタンレ―がはめてくれていた手袋を外すと、その真っ赤に染まった手を差し出す。
その間も、老婆の呼吸が止まりはしないかと何度も目をやった。
老婆はその手を力なく握ると、不気味な笑顔を浮かべた。
「この呪いはだめだ……血を吸いすぎている」
「!」
いかにも嬉しそうに、その潰れた目でレインの手を見ると、愛おしそうに赤黒くなっている所を二三度撫ぜた。
レインはその老婆の表情と撫ぜられる感触に、ぞっとするような気味の悪さを感じていた。
「ふふ……矛先を変えてやった……。あの男の顔が……目に浮かぶ……」
「!」
そう言うと、レインの腕を這っていたしわくちゃの手がするりと滑り落ちた。
「……ッ」
驚いてディアナに振り返ったが、黙って首を横に振り、レインにどこか申し訳ないような視線を送ってくる。
そのまま四人は部屋を出ると、ディアナは静かに扉を閉め、レインに振り返った。
「レイン……お前の呪いは……他の者に向いた……」
「え……!?」
それを聞いて、スタンレ―は危うく喜びそうになった。
もちろん、レインが助かるのならばという思いからだったが。
しかし、レインとディアナの表情は固かった。
「ディアナ様……それは、どういう……?」
レインは、老婆が不吉な事しか言わないという事と、ディアナの重い顔つきに不安の色を隠せない。
「……その剣に他の者の血を与えるのだ……。お前の、一番愛しい者の命を……」
「!」
「な……!?」
「さすれば、お前の命は助かる……」