Butterfly

□5.火拳
7ページ/18ページ


「レイン様……」

「聞いていたか」

「……」


レインは剣を拾い上げると、誰とも目を合わせず城から出て行った。

広場には死体が散乱し、血と死臭が漂う。

なんて自分にお似合いな場所なんだろう。

この、人殺しの血を継ぐ自分に。

レインは膝を付き、自然と剣を抜いた。

ジュ―ドの言った事が本当ならば、こんな呪われた血は今すぐ絶たねば。

その瞬間、老婆の言葉が脳裏に過ぎる。


「……」


レインは妙に納得したように、自分の喉元にその刃をあてた。


「……レイン様ぁッ!」


その時、スタンレ―がその剣の動きを止めた。


「止めるな……」


しかし、レインの空虚な瞳はスタンレ―ではなく、宙を虚ろに見つめたままだ。


「レイン様! あの男の話に耳を貸してはなりません! 少なくともあなたは……ッ人殺しなどではない! くッ……!」


「……」


ふいに、苦痛の表情を見せるスタンレ―の様子が目に映り、レインは自分の剣を見下ろした。

剣の刃を握りしめていたスタンレ―の片手から、血が滴っている。


「!」


レインは咄嗟に剣を離した。


「スタンレ―……!」


スタンレ―は剣を自分の方に引き寄せると、にっこりと笑った。


「ほら……あなたはこんなにお優しい……」

「……!」


思いがけない笑顔と言葉にレインは体をびくりと強張らせると、どこか虚ろだったままの瞳を潤ませた。


「……」

(まったく……どこかできいたような話だ………)


レインの小さな背中を見つめていたエ―スは、つい自分の境遇と重ねて考えていた。

しかし、絶対的に違うのは手の痣だ。

レインには時間がない。


その時傷を押さえながら、弱々しい足取りでディアナが現れた。


「レイン……中に入れ。私の母に会わそう」

「母……?」

「あぁ……お前が会ったという老婆だ……」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ