Butterfly
□5.火拳
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「アンガス王が不吉な呪いを受けたと大層ご立腹でな……。海賊を使ってこの国を潰そうとしたが……」
(……あの海賊はジュ―ドが!?)
「いつまでたっても戻ってこんので私が直接来た。アンガス王はあまり気が長いほうではないのでな」
ジュ―ドは、やれやれと言わんばかりに首を振って見せた。
「お前は……王達を使って何をする気だ……!?」
レインは剣を抜いた。
ジュ―ドもにやりと笑い、ディアナからレインに切っ先を移した。
「皆、私と同じく、戦争が好きなだけだ……。血を見たいのさ! レイン……お前もそうであろう?」
「!」
ジュ―ドは一気にレインの所まで飛び込んで斬りつけてきた。
咄嗟に合わした剣が、耳を劈くような鳴き声をあげる。
「くっ……!」
その時、剣を握る手に例の痛みが襲った。
震えるその手で剣を合わしているだけで額に汗が滲む。
「……ッ!!」
その痛みは、次第にざわざわとした気味の悪い感覚を伴った。
レインはそれに耐えられず、ジュ―ドから飛び退いた。
「はぁ……はぁ……」
(くそ! こんな時に……!!)
そんなレインの様子を見て、ジュ―ドはとても愉快だと言うような顔で、自分の剣をぽんぽんと手に打ちつける。
「ふふふ……『魔』に魅入られたか……」
「……!?」
「その剣……ベアトリー家に伝わるというその剣だ。ノウマ城でお前が持っているのを見た時、俺は歓喜した!!」
「な、に……!?」
「ふふ……お前はその剣に魅入られ、必ず血を欲するようになるだろうと思っていたからな。……覚えがあるだろう?」
「!」
確かに、レインはノウマ城内の人間を殺す時、必要以上に斬りつけた。
バルカンも、首を落としてからもなおミンチのように切り刻んだ。
(いや、剣を握っていない時だって、自分は何をした……?)
レッドフォ―スに乗った時、三人の男に襲われそうになった。
あの時の記憶は曖昧だ。
気絶させた後、その喉笛に喰らいつこうとしなかったか。
滴る血を見たかった。
しかし、人の声で咄嗟に飛び退いたのだ。
(……私……私は………)
レインは剣をがらんと落とし、自らの両手を見つめた。
その両手は真っ赤に染まり、滴る血が今にも溢れてきそうだ。
ジュ―ドは、何もない掌を憑かれたように見つめるレインに、思いもかけない言葉を投げかけた。
「レイン……そもそも、お前が必死に守ろうとしていた『ベアトリー家』なんてものは存在しない」
「!?」
「お前は王族でもなんでもない……ただの人殺しだ!」