Butterfly

□5.火拳
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「な……!」


いきなりの予言めいたその不気味な言葉は、レインの体を金縛りにかけたように動かなくした。


「レイン様?」


その時スタンレ―が城の方から駆け寄ってくるのが見えた。


「どうかされたので……?」


戦慄の表情で振り向いたレインを不思議そうな顔で見ている。


「いや……だって……」


しかし、指差した先にはもう誰もいなかった。


「!?」

「あのベンチが……何か?」


レインはまだ納得できないままだったが、ポカンとベンチを見るスタンレ―に、なんでもない、と手を振り、噂はあながち嘘ではないかもしれない、と思った。


「……では、城内へご案内いたします。よろしいですか?」

「あ、あぁ……」


レインはもう一度誰もいないベンチを振り返ってから、城へ向かった。




通された間でしばし待つと、そのうちにドアが開かれた。

レインは、そのドアの向こうに例の老婆がいるのではないかと思ったが、そんな年老いた女は一人もいないようだった。


「お前がレインか?」


艶やかな女達の中でも、一層背が高く美しい女が奥の椅子に座った。

腰まである流れるような黒髪はそれだけでも十分な魔力を秘めているように見える。


「ディアナ様……お初に御目にかかります」


挨拶を済ませたレインを、その黒曜石のような瞳がじっと捉える。


「……」


レインは、もしかしてさっきの老婆と同じ事を言われるのかと身を固くしたが、ディアナはすっと目を逸らした。


「して……? 今日は何用じゃ」

「えぇ。実は、私達はある男を追っているのですが……」

「マ―カス・ジュ―ドか」

「!?」


スタンレ―の話を最後まで聞かず、ディアナは鬱陶しそうに髪を掻きあげた。


「案ずるな。程無く会える……しかし……」


ディアナは少し黙ると溜め息をつき、目を伏せる。


「これも、運命か……」

「……?」


その呟きの意味がわからず、二人は顔を見合わせた。


「レイン……お前の知りたい事はその男から聞くがいい……」


ディアナはそれだけ言うと立ち上がった。


「ディアナ様!」


部屋を出て行こうとするディアナに、レインは先ほどの老婆について聞いた。


「ふん……会ったか。あの老婆こそ、ここが魔女の国と言われるようになった元凶……」

「……」

「しかし、運命を変える事ができるとしたらそれは……あの老婆の力を借りるより他はない」

「……!」

(私の運命は、変わる……?)


ディアナは最後に薄く笑うと、足早に部屋を出て行った。


「レイン様……」

「あぁ」


やはり、ジュ―ドはこの痣について何かしらの情報を握っている。

しかし二人はとりあえずその老婆を捜す事にした。










城を出てすぐ、二人は町の異変に気付いた。


「なんだこれは!?」


先ほどと変わらずまるで静かだったにも関わらず、広場には人が倒れている。

もう皆息はない。

剣で斬られた傷口を見て、レインは嫌な記憶が蘇った。


「スタンレ―! 町を!!」

「はい!」


レインは先ほどのディアナが言った、『運命』という言葉が引っかかっていた。

急いで城に引き返すと、そこはもう先程までとは違う、血と死臭が漂う空間になっていた。

奥に目をやると、一人の男と一人の女が剣を交えている。

と、女の剣が宙を舞った。


「くっ……!」

「ふっ……ディアナ。お前にはこれが見えていたのではないか? なのになぜ逃げなかった……」


ディアナの肩に剣を突き立てたその男は血にまみれた顔を歪めた。


「……!」


こんな短い間にこんな芸当ができるのは、やはりこの男しかいなかったのだ。


「ジュ―ド!!」


叫んだレインに振り向くと、ジュ―ドはとても嬉しそうにその顔を一段と歪めた。


「会いたかったぞ、レイン……」
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