Butterfly
□5.火拳
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「へぇ〜、一人の男を追ってねぇ? それは、奇遇だな!」
そのエ―スという男はレイン達からもらった食べ物を飲み込みながら言った。
「え?」
「実は俺も追ってる男がいるんだ。……そいつをとっ捕まえて息の根を止める!」
「……」
「プレストンには何か用が?」
「あ〜、いや。俺はこの先の島に用があるだけだ」
よく見るとエ―スは随分と若く、自分と変わらないくらいの歳かもしれないとレインは思った。
(しかし、この若さで先ほどのような技が使えるとは……海賊というのは本当に……)
「それで、エ―ス……?」
反応がないのでレインが覗き込むと、今まで勢いよく食べていた動作はぴたりと止まり、食べ物を詰め込んだまま寝息を立てている。
「え……? レイン様……この若者、寝ております!!」
「ふっ……見れば……わかる……はははっ!」
この光景に付け加え、スタンレ―の真面目な口調がなんとも可笑しかった。
レインは久しぶりに腹の底から笑いが込み上げた。
二人はエ―スと共に森を抜けた。
年齢と目的が同じせいか、レインとエ―スはどうやら気が合ったようだ。
プレストンの町に入るまで、しばし取り留めの無い話に花を咲かせていた。
「……」
時折見えるレインの笑顔に、スタンレ―は少し嬉しくなっていた。
色んなものを背負い込み、夜もまともに眠れないレインを痛ましく思うと同時に、何もできない自分の無力さに近頃は腹立ちすら感じていた。
(本来ならば、レイン様は毎日笑って過ごしてもいいくらいだというのに……)
「スタンレ―!」
独りで考えを巡らせている時に突如名を呼ばれ、スタンレ―は慌てた。
「は、はい!」
「ディアナ様とは……城に行けば会えるのか?」
珍しく呆けていたスタンレ―を不思議に思いながらも、レインは城をちらと見た。
「えぇ、恐らく……。私が話を通してきますので、少々お待ちください」
「あぁ。エ―スはどうする?」
「俺は……もちろん飯!!」
城に向かうスタンレ―と、飯屋に急行したエ―スを見送り、レインは町なかを見渡した。
『魔女の国』とはいかなるものかと思っていたが、なんてことはない、普通の町だ。
ただの噂話に尾ひれがついて広まっているだけなのだろうな、とレインは思った。
「……!」
しかし、突如自分の背後の異様な気配に肌が粟立つ。
「へぇ……面白いもの背負ってるねぇ。お譲ちゃん」
「!」
驚いて振り返ると、そこには目が潰れたくしゃくしゃの老婆がベンチに腰掛けていた。
一体いつからいたのだろう。
レインは全く気付かなかった。
まだ驚いている様子のレインの事などお構いなしで、老婆はその光の差さない眼差しをじっと向けた。
見えているのかどうかすらわからなかったが、レインは目を逸らす事もできぬまま立ちすくんだ。
すると、老婆はそのくしゃくしゃな口元を歪め、一層しゃがれた声ではっきりと言った。
「……その痣が腕一本を呑み込む時、あんたは自らの喉を掻っ切って死ぬだろう」
「!!」