Butterfly
□5.火拳
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「うわぁぁぁ〜っ!!」
「なんだ!? この女〜っ!!」
信じられないものを目の当たりにし、海賊達は一斉に後ずさった。
「……!」
その時、レインは未だかつてない右手の痛みに、思わず握っていた剣を落とす。
(なんだ……これは!?)
「くッ……!」
レインの異変に気付き、恐怖に染まっていた海賊達の表情は一変する。
「……おや〜? どうした……?」
「なんだ……さては怪我でもしてんのか!? ……よし、今の内にこの女殺すぞ! 兄貴の仇だッ!!」
「……ッ」
「レイン様!」
(もしやまた手の痣が……!?)
顔を強張らせたまま動かないレインを見て、すっかり安心した様子の海賊達は、先ほどのいやらしい笑いを携え再びじりじりと迫ってきた。
その時、突如異様な程の熱気が辺りを包み込んだ。
「あ? 熱ぃぞ……なん……!?」
「……『火拳』ッ!!!」
「!!」
突如、レインの目の前で、海賊達は巨大な炎に包まれた。
「うぎゃあちちちち―っ!!!」
「あばばばば……!!!」
「…………!!!」
海賊達は燃え盛る炎に逆らえず次第に人間の形を失くしていくと、なぎ倒された辺りの木と共に、ぱちぱちという音を残した。
それはまさに一瞬の出来事であった。
(何が、起こった……!?)
目の前で燃えているものを見つめたまま言葉を失くしたレインの前に、森の中から一人の男が現れた。
「大丈夫かい? お嬢さん」
「……誰だ……?」
レインは咄嗟に落ちた剣を拾う。
突き出された剣を見て、その男は首を傾げた。
「なんだ……余計な世話だったか?」
「……」
「レイン様!」
縛られていたはずのスタンレ―が駆け寄ってくる。
「スタンレ―! 大丈夫か!?」
「はい! ……この若者が……!」
「……!」
レインはもう一度その男を見た。
得体は知れないが、とにかく自分達を救ってくれたのには間違いないようだった。
「……」
レインは剣を納める事にした。
「助けていただいて礼を言う。お前……」
名は、と聞こうとしたが、その男は突然その場にしゃがみ込んだ。
「おい……」
どこか怪我でもしたのかと思い、手を伸ばそうとした瞬間、
「腹減った……」
と、なにやら凄まじい腹の音を男は奏でた。