Butterfly
□5.火拳
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「なんだこの町は……!?」
スタンレ―もゾロもその島の有り様にただ驚くばかりだった。
店や民家は瓦礫の山と化し、その山を抜ければただの何もない島で、まるで最初から町などなかったかのように見える。
「!」
その時、二人の視界に倒れているエ―スの姿が飛び込んできた。
「エ―ス様……!?」
「おい! 大丈夫か!?」
二人は慌てて駆け寄ったが、エ―スは意識を完全に失っているようだった。
「ひどい怪我だ……一体ここで何が?」
「……」
よく見ると辺りに人の肉片らしきものが散らばっている。
二人は、一瞬レインのものかと肝を冷やしたが、辛うじて原型を留めている部分から察するに、それはどうやら男の死体のようだ。
(あいつはどこに……!?)
その時、肉片の向こう側に点々と血が落ちているのが見えた。
「……ッ!」
「あ! ちょっと……!」
ゾロはその跡を辿り、さっきとは反対側の海岸に出た。
そこには、レインを抱えた男が一隻の船に、今まさに乗り込もうとしている所だった。
「……!!」
しかし、その男の姿にゾロの心臓はどくん、と大きく収縮した。
そして反応したのは心臓だけではなく、胸にある傷痕も然りだった。
未だ体に大きく残るその傷が奴の姿を見た途端、激しく疼きだす。
「……鷹の目ぇ―ッ!!」
「……」
鷹の目のミホ―クは、ゾロをちらりと見ただけで、そのままレインを慎重に船に寝かした。
「てめ……!」
ゾロが思わず二人の方に近づこうとした瞬間、その鷹のような目がぎらりと光った。
「!」
ミホ―クが背中にある剣を抜いたと同時に、ゾロの目の前の大地が凄まじい音を立てて裂けた。
島の端から端までぱっくりと口を開け、いまにもゾロを呑み込もうとしているかのようだ。
「来るな……」
船はゆっくりと海に出た。
「おい! 待て!! その女をどうする気だ!?」
ミホ―クは答えず、船は次第に沖へと向かっていった。
その時、ゾロの足元がガラリと崩れた。
「……!」
ミホ―クの斬撃の勢いは未だ止まず、その裂け目を次第に深くしていたようだ。
裂けた所には大きなひびが生じ、後から後からゾロの足元を崩していく。
船は遠ざかり、ゾロは呑み込もうと襲ってくる裂け目に、後ずさる他なかった。
焦る心とは裏腹に、二人との距離は広がるばかりだ。
というか、このままでは島自体がなくなるかもしれない。
「チッ!」
ゾロは急いでスタンレ―の所に戻った。
(くそ……! あの男にだけは渡せねぇ……!!)
「おい! スタンレ―!! 行くぞ! この島はもうもたねぇ!!」
「はぁ? ……は、はい!!」
スタンレ―は一瞬不思議そうな顔をしたが、ゾロの背後に迫る地割れを見るや、急いでエ―スを担いだ。
(レイン……あの血はお前の血か………?)
先ほど見たレインは血まみれで、最初に会った時の姿を思い出させる。
あの時は、自分に今から降りかかる事など想像もしていなかった。
自分が、こんなにも強く人を求めるとは。
聞き分けの無い子供のように、ただ手に入らない物を欲しがっているだけなのだろうか。
(それとも、この想いの名は………)
二人はエ―スを担いだまま急いで船に乗りこんだ。
最初は小さかった地割れは、次第に島全体を呑み込んでいく。
その島、バナロ島は、沢山の瓦礫と岩山を残したまま、海の中へと姿を消した。
→6.死の外科医