Butterfly

□5.火拳
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スタンレ―は、ゾロを連れてラボルディ―へと船を進めていた。

本当はまだ調べたい事があり、一人で向かって欲しかったのだが、この男ときたらなぜか同じ所をぐるぐるまわっては帰ってくるのだ。


「ところで、本当に『火拳のエ―ス』、と?」

「えぇ」

(エ―スっていや、ルフィの兄貴だったよな……?)


スタンレ―は、怪訝な様子のゾロの横顔をちらと見た。


(この者がジュ―ドと斬り合ったのは……レイン様の為だろうか)


レインを自分の物だと言うゾロに、ディアナとスタンレ―は今までのいきさつを話した。

普通の者なら、その話を聞けばもうレインに近づこうとはしないだろう。

なんせ、自分の命が危ういのだから。

しかし、ゾロは話を聞いてすぐマスタ国に向かうと言った。

未だ海軍が自分を捕らえようとウロウロしているというのにも関わらずだ。


「死ぬのが……怖くないのですか?」


話を聞いてもレインを追うというゾロに、スタンレ―の口から思っていた事がついポロリと溢れた。


「あ? 何言ってんだ。俺は死ぬつもりなんてねぇ」

「しかし……」


真面目なスタンレ―に対して、ゾロはすっかり呆れた様子で息をつく。


「あのなぁ、俺はあいつが死ぬのを指くわえて見てる気もねぇし、かといって殺される気もねぇ! おっさん、ちょっと黙ってろ!」

「はぁ……」


ゾロがまた焦れた様子で前を向いた時、前方から一隻の船が見えた。


「……あれはマスタ国の船!? まさか、レイン様が?」

「なに?」


二人は急いでその船に寄せたが、それにはレインではなく大勢の人間が所狭しと乗っていたのだった。


「お〜い。なんだ、あんた達? プレストンの者か?」

「その船にレインて女は乗ってねぇか!?」

「レイン? ……いや」


その人々は顔を見合わした。


「あ! もしかして、この船くれたねぇちゃんか!?」

「!」

「船をあんたらに? ……で、その女はどうした?」

「それが……俺等の島で海賊が暴れて町が無くなっちまったんだが……、その話を聞いた途端、血相変えてその海賊の所に走っていっちまってよ……」

「なに!?」

「……それは、火拳のエ―スって男か?」

「いや、黒ひげって奴だった! ……一瞬だったよ。町が呑み込まれちまうのは……」

「……」


人々はそれぞれ顔を恐怖に染め、その時の凄惨な様子を表した。

二人は軽く礼を言うと、航路をその島へと変更する事にした。









天を仰いでいたレインの首が、突如がっくりと横を向いた。

その顔は蒼く、一切の血の気は失せていた。

エ―スはレインに手を伸ばしたが、それはもちろん届かない。


(レイン……)


次第に狭まる視界の隅に、ふと誰かが見えた気がした。

しかし、それが幻かどうか確認する事ができぬまま、エ―スの意識はついに遠のいた。






一人の男がレインに近づく。

その男はレインの頬にそっと触れると、その血にまみれた体を抱き上げ呟いた。


「本当にお前は……血が絶えないな」
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