Butterfly

□5.火拳
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マスタ国に着くまで、二人は自然と手を繋いでいた。

エ―スはずっと取り留めの無い話をしていたが、町に着いた途端、急に真面目な顔になった。


「レイン……自分の血を呪うな」

「え……?」

「自分の一族がどうあれ、お前はお前だ」


そう言うとそっと手を離し、笑った。


「……」


レインはずっと不思議だった事を聞いてみる事にした。


「エ―ス……なぜそんなに強くいられる?」

「……」


エ―スは歩みを止めると、空を見上げた。


「愛してくれる仲間……いや、家族がいてくれるからだ」

「……」

「俺のオヤジ……白ひげは、誰から生まれようとも人間みんな海の子だと言ってくれた」


エ―スは思い出すように薄く笑ったが、すぐに拳を握り、空を睨みつけた。


「だから許せねぇ! 仲間を殺し、オヤジの名に泥を塗ったティ―チがな!!」

「エ―ス……」


レインはエ―スの拳にそっと触れた。


「いつか会ってみたいな。……お前の家族に」

「レイン……」


レインの家族はもういなかったが、それでも今の話を聞く間、これまで外の海で助けてくれた者達の顔がよぎった。


ミホ―ク。

麦わらの一味。

シャンクス。

そして、エ―ス。


「……」


見事に海賊ばかりだ。

レインは少し可笑しくなって笑った。


「なんだよ?」

「いや……」


いきなり吹き出したレインに首を傾げながらも、エ―スもつられて笑顔になった。


「なぁ、レイン。俺がこの先の島で首尾よくティ―チを捕らえたら……オヤジの所に行ってみるか?」

「え……?」

「行こうぜ! 一緒に!!」

「エ―ス……」


レインが黙って頷くと、エ―スは顔を輝かせた。

この町でまた会う事を約束し、エ―スは背を向けながら手をひらひらと振った。

出会った人間と再会の約束をするのは初めてだった。

それは、自分の身に起こっている事も理由の一つだが、こんな時代だからまた必ず会えるとは限らないからだった。


「……」

(エ―スは強い。……だが)

「エ―ス! お前は私の命を救ってくれた! だから……!」


お前の身が危険な時は必ず行くから、と言いたかった。

しかし、エ―スは耳に手をあて、聞こえない、という身振りをした。

そして最後に笑顔を残し、その姿は見えなくなった。


「……」


レインはその笑顔を焼きつけると、城の方へと向かった。

門の所には兵士が立っている。

構わず進もうとするレインに、当然の事ながら両側から剣で通せんぼされた。

仕方がない。

この城には幼い頃に一度来たきりだ。


「ビリア王にお目通り願いたい」

「……貴様は?」


兵士は剣を下げぬまま冷たく見下ろした。


「レインが来たと……。ベアトリー・レイン。姪だ……」

「!」

「すぐに門をお開けしろ!!」


名を聞いた途端、慌てふためき門を開ける兵士を見て、王が王なら、兵士も兵士だ、と、レインは小さく息をつきながら門を潜った。
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