Butterfly

□4.赤髪の
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「アッ……アッ……!」


しばらく、ゾロの上で女が激しく上下していた。


「……やめろ」

「え……? きゃあッ!」


しかし、ゾロは女の体を引き剥がしベッドに放ると、黙って服を着用し始めた。


「なによ!? 好きな女でもいるわけ!?」


ヒステリックな声で叫ぶ女を尻目に、ゾロは足早にその部屋を後にする。

あれ以来誰と寝ても、苛立ちが募る一方だった。

性欲を処理するだけと割り切っていても、誤魔化しきれない想いが一段と増すだけの行為に辟易とさえする。

まったく、病んでいるとはこの事だ。

少し通りを歩くと、城下町らしく夜でも賑わいをみせていた。

楽しげな音楽に笑顔の人々。

そんな中、自分一人が暗闇にぽつんと置いていかれているような錯覚を起こす。


(俺は……一体どうしちまったんだ)


ゾロは眠る前に酒でも煽ろうとバ―に入った。

カウンタ―に腰掛け、強い酒で喉を潤す。


(情けねぇ……たかが女一人の事で)


だが、ゾロは最後に見たレインの微笑みがいつまでも忘れられなかった。


「くそッ……」


その時、店内に入ってきた男を見て、少しざわめきが起こる。


「なんと! こんなむさくるしい店にお越し下さるとは……! ささっ奥へどうぞ!」

「いや、ここでいい」


その男は店主の勧めた席を断ると、ゾロの二つ隣に座った。


「そう気を遣うな……。私は王族でもなんでもないのだから」

「とんでもない! この国が再建できたのはひとえにあなた様のお陰に他なりません! この国の王ときたら、ギャンブルに大切な国のお金を使う始末で……」

「おい、口を慎め」


その男が一睨みすると、ぶつくさ言っていた店主は途端に縮み上がる。


「し、失礼しました! ジュ―ド様!」

「!」


店主は頭を下げ酒を置くと、慌てて奥に引っ込んだ。


「おい、あんた……『ジュ―ド』と言ったか?」


その男はグラスを置くと、ゆっくりとゾロの方を向いた。


「生憎、海賊風情に名乗る名は持っとらんが……?」

「……じゃあ、質問を変えてやる」


ゾロは溜め息をつくと、椅子からすっと立ち上がった。


「『レイン』て女は、知ってるか?」

「!」


その男の鼻先に刀を突き出しながらゾロは睨み付けた。


「きゃあ―ッ!!」

「ジュ、ジュ―ド様が!!」


いきなり刀を抜いたゾロを見て店内は一気に騒然となり、先ほど引っ込んだ店主が慌てて奥から飛び出してくる。


「――あの女の関係者か」

「……」


刀を突き出されながらも、その男はにやりと笑ってみせた。


「寝たか? ……あれはいい女だっただろう」

「……表に出ろ」


周りの客のざわめきなど気にも留めず、そのジュ―ドという男は尚も続けた。


「で? 惚れた女のお手伝いと言うわけか……。海賊というのは案外暇なんだなぁ」

「……」


その時、しばらく鼻先でぎらついていた刀は首下に回り込み、その皮膚に触れた。


「!」

「俺はこん中で暴れても一向に構わねぇが?」


嘘も偽りも無い、と殺気を浮かべたゾロの瞳が言っていた。


「……」

「ジュ、ジュ―ド様……!」

「大丈夫だ……。表に出よう」


二人は静まり返った店を出て裏の通りを抜けると、少し開けた所に出た。


「ふふ……いい殺気だな。まるで獣のようだ」

「……あんたに直接恨みはないが」


ゾロは三本の刀を構えた。


「ほぉ……三刀流とは珍しい。しかし……あの女はつくづく剣士が好きらしいな」

「……」


刀を構えているゾロに対して、ジュ―ドは抜いた剣をだらんと下げたままだ。


(全くの隙だらけ……どういうつもりだ?)

「あの男もそうだ。……名をなんと言ったか。世界一の剣豪と名高い、『鷹の目の』……」

「!」


ゾロはジュ―ドがその名を言い終わる前に斬りかかった。

しかし、ゾロの三本の刀はジュ―ドの眼前でぴたりと止まり、手にした一本の剣によって防がれている。


「!?」

「ふむ……力が定まってないな。刀の動きがばらばらだ」

(なんだ……!? まるきり動かねぇ!)

「……今度はこっちから行くぞ」

「!」


ジュ―ドが三本の刀を支えていた剣を振り払うと、ゾロは簡単に吹き飛ばされた。


「なっ……!」

「まだだ」

「!」


宙を舞うゾロに追いついたジュ―ドが再度剣を振るう。


「ぐわぁっ……!!」


ゾロは胸から腹までをまともに斬られ、大地に転がった。


「ふふ……そんな強さじゃレインに相手にはされるまい。あの女は強い男が好きだからな。……この私のように」
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