Butterfly

□4.赤髪の
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「大頭!! 軍艦から女が落ちました!」

「ん……? 女?」


海軍と同じく様子を窺っていた海賊は、突然の事に困惑した。


「なんだ……どこに行った?」


生きていても死んでいても、どちらにしても海上に顔は出てくるはずだ。

しかし、その姿は望遠鏡におさまらない大きさで突如現れた。


「うわぁぁぁっ!!」

「!」


水を纏い船上に現れたその姿はまるで水神の如く、望遠鏡を手にしたまま見張りは無様に腰を抜かした。


「はぁ……『赤髪のシャンクス』……という人は? ……はぁ……」

「……!」

「なんだてめぇ!?」


剣を抜いて突如進入した怪しい女に、船上は一気に騒然となる。


(この女は……! )

「待て!」


その時辺りに水を撒き散らし、レインはその場に倒れた。











次にレインが目を覚ますと、そこは船室のベッドの上だった。


「……っ!」


反射的に起きようとして、肩に激痛が走る。


「傷が開いたようだな……海中で血を流しすぎたんだろ」


部屋の隅には先ほどの赤髪の男が座っていた。


「……あなたが、赤髪のシャンクス?」

「あぁそうだ……。ベアトリー・レイン? と言ったか。クライズメインの王女は……」

「! ……その名は捨てた」

「あぁ。鷹の目から少しだけ聞いている」


レインは懐かしいその名に想いを馳せた。


「なぜこの船に……俺に何か用か?」

「……」


次第に頭の中が明るくなってきて、レインは赤髪と聞いて反射的に海に飛び込んだ事を思い出した。


「……特に」

「はあ?」

「しいて言うなら……軍艦に乗っているのが飽きた」


その時、しばらく警戒の色が見え隠れしていたシャンクスが仰け反った。


「ははは! こりゃいいや!! 鷹の目が苦労するはずだ!!」

「……」


その笑顔は無垢な子供のように爽快だった。

とても名のある海賊団の船長とは思えない。

シャンクスの笑い声を聞いて、ドアの前に待機していたのか、部屋の中に二人ほど入ってきた。


「目ぇ覚めたのか? いや、あんた何ウケてんだよ……?」


しばらく笑いの止まらないシャンクスを見て怪訝な顔を見せるも、まぁいつもの事かという風だ。


「お前、そんな怪我で海に飛び込むなんざ、無茶苦茶だな!」

「それもそうだが……俺らが悪〜い海賊だったらどうしたんだ? 逃げ場もないだろう」


一人が怖い顔を作って見せ、脅すように言った。

その顔を見て、レインは少し声のトーンを下げると、


「その時は……皆殺しにして船を奪おうと思っていた。……すまん」


と、謝った。


「!」


少し笑いがおさまっていたシャンクスからまた笑みがこぼれる。


「はははっ!! なぁ、こいつおもしれぇだろ!?  はっはっは!」


その二人も驚いた顔が急に崩れると、同じように笑い転げた。


「……」


部屋の中に充満するような笑い声を、黙って聞いていたレインの頭をふと温かい思い出がよぎる。


「……海賊とは、みんなこんな風なのか?」

「はは……はぁ……みんな?」

「なんだ……他の海賊船に乗っていた事があるのか?」

「あぁ。そこでも笑いが絶えなかった……」


レインは少し目を伏せ、悲しい笑みを見せた。


「……」

「シャンクス……この船はどこに行く?」

「あぁ。とりあえずこの先の島まで。乗ってくか? それともどこかに送ってやろうか?」


シャンクスはすっかりレインが気に入ったようだった。

まだ面白そうな目でレインを見ている。


「おいおい……またかよ……」


二人は呆れたようにため息をつくと、ぶつぶつ言いながら部屋を出て行った。


「……」

「まぁ、どこに行くにしろその怪我を治してからだな。あとお前の剣は預からせてもらった。うるさい連中がいるんでな……」


シャンクスはそう言うと、部屋を出て行く前に振り返った。


「ちょっとここで待っとけ。部屋から出るなよ」

「……」


レインは部屋の中を見渡した。

ルフィ達の船よりも遥かに広く立派だ。

そこだけとっても、この海賊団の大きさ、ひいてはシャンクスの偉大さが見て取れる。

レインはシャンクスに言われた言葉を無視し、部屋を出た。

シャンクスの事はミホークからちらりと聞いた事があった。

四皇と呼ばれる強大な海賊団の存在。

そして腕を失う前までは互いに決着がつかない勝負に剣を交えていた事も。

肩の傷は手当し直してあった。

海を見詰めながら、そっと手を添える。


(ミホークが見たらまた、お前は血が絶えないと笑うだろう……。)


この船に乗っているとなぜかミホークの事を思い出す。

シャンクスから立ち昇る覇気がそうさせるのかもしれない。

レインが色んなことに思いを馳せていると、後方から突如殺気を感じて振り向く。


「おい! てめぇがミホークの女ってのは本当か?」

「……」


そこには明らかな敵意を剥き出しにした男達が、武器を手にレインを睨みつけていた。


「俺達が前いた船はなぁ、ヤツの手によって沈められたんだ……!」

「そうだぜ! 家族も乗ってたってのによぉ……!!」


その三人の男は、じりじりとレインに近づいた。


「……それは不思議な事もあるもんだな」


レインはその男達を静かに見据え、冷たく言い放った。


「何ぃ!?」

「その話が本当なら、なぜ……お前達は生きている?」

「!!」


その男達は家族と船を捨て、命欲しさに逃げ出したのだった。

痛い所を突かれ、殺意を漲らせていたその男達の表情は、みるみる赤くなっていった。


「……この女ぁっ!!」

「ひひっ!! 丸腰のてめぇに何ができる!?」

「もうそんな口叩けねぇように可愛がってやる!!」


三人は丸腰のレインに向かって半ば楽しそうに剣を抜いて向かってきた。
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