Butterfly
□4.赤髪の
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「レインは?」
「あぁ……眠ったよ。薬が効いたようだ」
シャンクスはあれ以来もの言わぬ、スタンレ―をちらと見た。
「スタンレ―……、話せ。あれはなんだ?」
「……」
「レインは……どうなる?」
シャンクスは額に手をあて、深くため息をついた。
レインが眠るまで、何度も手を見ずにはいられなかった。
その白い指を染める血の痣は、見る度広がっているような錯覚を起こすのだ。
その時、スタンレ―はテ―ブルの上の拳を握りしめ、意を決したように顔を上げた。
「私にわかる事は……、あれが広がると、レイン様の命は……」
苦しいものを少しずつ吐き出すように語るスタンレ―の様子を見ているだけでも、その話が真実であると思い知らされる。
「止められないのか……!? あれは……」
その場にいる人間は皆、黙って俯いた。
翌日、船はマスタ王国周辺の海域まできたが、入港する事はなかった。
港に海軍の軍艦が立ち並んでいた事も理由の一つではあったが、何より、レインの身を全員が案じていた。
あの不安定な状態でもし、ジュ―ドという男に会ったらどうなるのか。
シャンクスは、あれきり死んだように眠るレインの髪を撫ぜた。
「本当にお前は……俺を驚かしてばかりだな……」
その時シャンクスの指にふとレインが触れた。
「シャンクス……?」
「レイン……気分はどうだ? どこか痛むか……?」
レインは、まだ力の入らない体を無理矢理起こすと、自分の手を見た。
大きめの手袋が、またきっちりとはめられている。
「……」
レインはそれを外そうとしない代わりに、シャンクスをじっと見詰める。
顔色が悪く全く元気がないように見えた。
これじゃどっちが病人だかわからない。
「シャンクス……私は、どうなる?」
「……」
「死ぬか……?」
「! ……」
シャンクスはレインを思わず抱き締めた。
「やめろ! お前は、死なない……!」
僅かに震えるシャンクスの体が、かえってレインにそれを知らしめた。
「……」
レインはシャンクスに体を預けたままで囁いた。
「……死ぬのならば、あの男を道連れに……」
「!」
シャンクスはレインの顔を見つめたが、その表情からは怒りも悲しみも、恐怖の色も感じられない。
恐らく、本心なのだ。
どこか決意じみたものが瞳から滲み出ていた。
「シャンクス……」
「……なんだ?」
「私とスタンレ―は、船を降りる……!」
レインとスタンレ―は、マスタ王国の隣国であるプレストンという国の近くで船を降りた。
ここからならば、陸伝いに歩いていけるそうだ。
「大頭は……ほんと、レインに甘いな……」
「あぁ……テラ甘だ……」
「いや……ペタ甘だ……」
「おい、ペタって何だよ……?」
「お前、知らねぇのか……? ペタってのはなぁ……」
「いや、マジどうでもいいし、その話……」
二人を見送るクル―達はすっかり元気を失っていた。
「なんだお前ら、揃いも揃って情けねぇ面しやがって……って、大頭、あんたもだよ!」
「あ? あぁ……」
レインはシャンクスのくれた手袋を見つめ、シャンクスのくれた言葉を胸に刻んでいた。
そして振り返り、最後に大きな笑顔を作って見せた。
「見ろよ……本人は笑ってるぜ」
「あぁ……、いい笑顔だ」
「……」
(レイン……)
シャンクスは大きく息をつくと、立ち上がった。
「よし! 俺らも行くぞ!!」