Butterfly
□4.赤髪の
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「それが……いくら調べてもマ―カス・ジュ―ドという男について、何の記録も出てきません。偽名か、あるいは……」
「第三者が意図的に隠しているか……、だな」
「えぇ……」
「そのジュ―ドという男が各国に出入りしているのは何の為だ?」
「色んな王に取り入り、その軍事力や科学力を利用しようとしているのではないかと……」
(なぜそんな事を……でかい戦争でも起こそうってのか)
シャンクスの嫌な予感は募った。
その男が世界に何かする気なら、もはやレイン一人の問題ではなくなるだろう。
「!」
その時、またしても虫酸が走るような嫌な感覚がシャンクスを襲った。
「はぁ……はぁ……」
城内だ。
また自分は城内を走り回っている。
夥しい死体の山。
辿り着いた王座の間。
扉を開けるとやはりそこには、父と母が捕らえられている。
夢だ。
いつもの夢。
しかし、二人の首を切り落としたのは、自分であった。
血まみれの自分。
もっと殺す人間はいないか飢えた獣のように探し回る。
もっと血が見たい。
もっと血が欲しくてたまらない。
もっと、この剣に血を吸わせなければ。
「……レイン、レイン!」
突如肩を揺らされ、レインはびくんと目を見開いた。
「はぁ……はぁ……」
「おい、しっかりしろ!」
「剣……私の……剣は!?」
まだ焦点の定まらない視線のまま、レインは体を起こし髪を振り乱して自分の剣の姿を求めた。
「剣ならそこに……ベッドの横だ」
レインが憑かれたように夢中で剣を拾い上げたので、シャンクスはまた刃を突きつけられるかとひやりとしたが、それはすぐに床へと滑り落ちた。
「!?」
「はぁ……はぁ……」
レインは、自分の右手を信じられないといったように見詰めていた。
シャンクスは素早くレインの手を掴むと、手袋を取り上げた。
「!!」
レインの、ほんの指先にだけ付いていた赤い染みは、いつの間にか爪の下にまで広がっている。
(まさか……! 短時間でこんなに!?)
「いやぁぁぁっ!!!」
「レイン……レイン……!! 大丈夫だ! 落ち着け!!」
頭を抱えて叫ぶレインを、何とか落ち着かせようとシャンクスは必死で抱きすくめた。
そこへ、悲鳴を聞きつけたスタンレ―が部屋に飛び込んでくる。
「レイン様!!」
半ば狂ったように泣き叫ぶレインに慌てて近づくが、その指先を見た途端、スタンレーは足を止めた。
「その指は……ッ!」
「……スタンレ―! 知ってるのか!?」
「……」
スタンレ―は表情を固くしたまま言葉を呑み込むようにして口を閉じた。
(スタンレ―……?)
その時、頭を抱えたまま震えていたレインが、髪を乱し、涙で濡らした顔をゆっくりと上げ振り向いた。
「スタンレ―……血が……落ちない……」