Butterfly
□4.赤髪の
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優しく見つめる瞳。
甘ったるいくらいの口づけ。
首筋を這う唇と髭の感触がなんとも心地いい。
これだけでも、自分が愛されていると勘違いしてしまいそうだ。
なのになぜ、この人が愛してるのは自分じゃないんだろう。
自然に微笑みあえる恋人同士ならよかった。
いや、ただの仲間の一人でも。
傘下の、海賊でも。
ただ、傍にいれれば幸せだと思うのに。
なのに、どうして自分が愛してるのはこの人じゃないんだろう。
人は足りない何かを埋める為に体を繋ぐのだろうか。
「レイン……? ……寝たか」
無防備な寝顔にそっと口づけると、やめてと言わんばかりに手が宙を舞った。
その仕草の可愛いさに思わず笑みがこぼれる。
だが、力無くベッドに落ちたその指先がほんの少しだけ赤く見えた。
「……?」
そっと手を拾い上げてみると、血溜まりに少し触れたように、レインの指先には赤い染みのようなものがついていた。
翌日、レインが目を覚ますとすぐに、シャンクスは船医の所に連れていった。
「ふん……」
「どうなんだ?」
「外傷は特にないようだが……痛みはあるか?」
レインは起きぬけで、まだ頭に靄がかかったようだったが、シャンクスの真剣な目に押され、自分の指に触れてみた。
「……」
赤黒いものがこびり付いている以外は、普段と変わらないようだった。
しかし、痛みはないと言いかけ、咄嗟に指を放す。
「……!」
一瞬だったが、針に刺されるような痛みが走った。
「レイン?」
「痛いのか? ……わからんな」
レインは恐る恐るもう一度触れてみたが、いくら触っても痛みは感じなかった。
「まぁ、気になるようなら包帯でも巻いとくか……て、言ってるそばから取るな―っ!!」
「剣が持てん……」
「ふっ……レイン、包帯が嫌ならこれを貸してやる」
シャンクスは少し安心したように笑うと、手袋を差し出した。
「何もないよりマシだろ?」
「……ありがとう」
レインは手袋をはめる前に、もう一度指先を見た。
あの痛みは一体なんだったのだろう。
ふと見ると、シャンクスも怪訝な顔付きで同じ所を見ていた。
シャンクスは、レインの指に触れた時、以前感じた嫌な気配を思い出した。
(何か、よくないものじゃなければいいが……)
「シャンクス……?」
「貸してみろ」
レインがなかなかはめないので、シャンクスが奪い取ってそれを手に被せた。
しかし、ぶかぶかだ。
これなら包帯の方がまだよかったかもしれない、とレインは思った。
「なんだよ?」
「ふふっ……いや」
医務室を出ると、忙しく歩くスタンレ―と遭遇した。
「……レイン様? どこか悪い所でも!?」
レインと医務室のドアを見比べながら、スタンレ―は血相を変えた。
「いや、大事ない。……それより、何かわかったのか?」
スタンレ―に言えば、剣を握るどころか、重病人扱いされる事は目に見えている。
レインは話題を変えるべく、先日頼んだ件について報告を求めた。
すると、すぐにスタンレ―の顔付きは戻った。
「えぇ、実は先程わかった事なのですが……。ビザの町で騒ぎを起こしたのは、海賊『麦わらの一味』……」
「!」
その名を聞いて、レインとシャンクスは同時に驚いた。
「そして、被害をうけたのは、……マ―カス・ジュ―ド……」
「……!」
「ロロノア・ゾロという男に、一方的に絡まれたという事ですが……」
(ゾロ……!?)
「レイン……」
シャンクスは困惑している様子のレインの肩にそっと手を置いた。
「騒ぎを起こしたのなら、あいつらがそのまま町に滞在しているとは考えにくいな……」
「……」
「まぁ、何にせよ明日にはビザに着く。……考えるな、レイン」
「……わかった」
レインは複雑な思いを抱えながらもシャンクスに促され、部屋へと戻った。
「スタンレ―、ちょっといいか?」
「はい」
二人もまた、船内へと入っていった。
レインはベットに寝転んだ。
考えるなと言われても、頭の中に次から次へ沸き上がってくるものを止める事はできそうにない。
ゾロがジュ―ドと出会い、剣を交えるとは。
恐らく、まともな斬り合いではなかっただろう。
ゾロも無傷ではいられないはずだ。
「……」
レインは髪を掻き揚げようとして、手袋をはめている事を思い出した。
柔らかな革の感触が気持ちいい。
その感触を額に感じながら、レインはまた眠りについた。