Butterfly

□4.赤髪の
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レインは懐かしい海へと来ていた。

しかし故郷に近づくにつれ、その顔は自然と厳しいものへ変わっていく。


「おい……やっぱり誰か、一緒に行かせるか?」


気遣うようなシャンクスの声でレインはハッと我に返った。

よほど恐ろしい顔付きになっていたのだろう。

レインはシャンクスの申し出を丁重に断ると、海に目を戻した。

やがて城が薄っすらと見えてくると、それがどんな姿であろうと受け止める覚悟を、拳を握る力に込める。

だが、まるで時が止まっていたかのように、その姿は昔と変わらず美しかった。

レインは少し安心して拳を緩めると、シャンクスに振り返った。


「……待っててやるから行ってこい。この辺は船も乗れないだろ?」

「シャンクス……」

「大頭はレインに甘いなぁ!」

「あぁ! 大甘だ!」

「いや、甘甘だ!」


みんなが少し大袈裟に笑ってくれて、レインの心は一段と軽くなった。

しかし、まだ微笑む事まではできなかった。






港につき、一歩ずつ確かめるように大地を踏むレインの背中を、シャンクスはいつまでも見守ってくれていた。

だが、やはり町の中は閑散としていて、家屋は当時のまま倒壊し、畑は枯れた実をつけ大地はひび割れていた。

人の呼吸がしないこの町には、三年前まで間違いなく人が住んでいたのだ。

マ―ガレットおばさん。

子供達。

沢山の人々が笑顔でこの国を照らしていた。


「……」


レインは辺りを見回し、ふとある事に気付いた。

一輪ずつだが、家屋の前に花が手向けられている。


「一体誰が……?」


その花はまだ新しい物のようで、レインはますます謎が募ったが、一旦考えるのは止め、城へ急ぐ事にした。


エバフォ―ル城を見上げると、意外なほどの綺麗さに息を呑んだ。

何もかもが昔のまま、という気さえする。

レインはここにきてやっと、懐かしいという気持ちが込み上げてきた。

少し緊張しながら中にそっと入ってみる。

もう門を開けてくれる門番はいないのだ。

バルカンがしばらく出入りしていたと聞いていたが、そのせいだろうか。

人がいない事以外は、ここも昔と何も変わらない。

生まれ育ったこの城は、もう飽きるほどに見てきた筈なのに、レインはあらためてこの城の美しさに深く息をついた。

その時、どこかのドアが開く気配がした。


「!」


レインは咄嗟に身を隠す。

どうやら男のようだ。

その男は深く息をつくと、レインと同じく城内をゆっくりと見回していた。

シャンクスと同じように隻腕のようだが、どうもその歩き方はぎこちなく見える。


「……ッ!」


その時、男の横顔が見えると、レインの心臓はどくんと飛び跳ねた。


(まさか……そんな………)


その姿をもう一度見たいと思う気持ちとは裏腹に、視界は独りでにぼやけていく一方だ。

レインはふらふらと立ち上がると、物陰から姿を現した。


「誰だ……ッ!?」


男がその気配に気付き、振り返る。

その懐かしい声に、レインの瞳に溜まっていたものが一気に溢れ出した。


「ッ……スタンレ―!」


思わず飛び込んだその体からは、手向けられていたものと同じ、花の匂いがした。
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