Butterfly

□4.赤髪の
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レインは船室には入らず、既に見えなくなってしまった島の方向をずっと見詰め続けていた。

他の軍艦は仕事を終え、ばらけるように本部へと戻っていく。


「……」

(この王女……我らの軍艦を一人で沈めたと聞いた時には耳を疑ったが……恐らく真実! あの混乱の中パシフィスタを倒したのも恐らく……)

「すまぬが」

「!」


レインの後ろ姿を密かに見ていた大佐が、急に声をかけられ体を強張らせた。

レインは背を向けたまま、目だけ大佐に振り返る。


「私の後ろに立たないでもらおう。……斬るぞ」


そして鞘から親指でくいと持ち上げて見せた刃をギラリと光らせた。


「!」

(……危険だ! この王女は!)


大佐は慌てて後ずさった。


「レイン王女! ビリア王からお電話です! どうぞこちらへ!」

「……!」


レインは中へ通され、受話器を取る。


「はい……」

「おぉっ!! レイン! レインなのか!?」

「……叔父様。しばらくですね」


もちろんレインは嫌味を込めて言った。


「いやぁ〜っ! あの時は大変だったのう! しかし、私はお前の行方をずっと捜していたのだ!! マスタ国に来い! 我らと一緒に暮らそうではないか!」

「……え?」

「家族であろう! 遠慮はするな! はっはっは!」

(どういうつもりだ? この男………)


このビリアという男は賭け事や遊びに目がなく、レインの父から城を任せられてもいつまでもだらしなく暮らしていたが、ついにレインの父から愛想をつかされ、一方的に縁を切られた。

クライズメインにもしばらく出入り禁止になっていたほどだ。

しかし、長年に渡って金の無心に訪れていたのをレインは知っていた。


「……ところでレイン? つかぬ事を聞くが……兄上から何か預かってはおらぬか?」

「何か、……とは?」

「ん〜遺品のような……例えば宝石とか剣とかだ!」

(こいつ、まだそのような事を……!)

「いいえ……! 城が突如攻め入られ、父と母はその場で殺されました! そのような暇などある訳がないでしょう……!!」

「あ〜……すまんすまん。そう腹を立てるな。まぁ……積もる話はこちらに来てゆっくりとな……」


レインは壊れんばかりに受話器を置くと、足早に外に出た。


(この男の世話になるなんて冗談じゃない……!!)


遠くの海には次第に小さくなる軍艦が見える。


「……」


その時、船内は一気に騒然となった。


「大佐!! 8時の方向に海賊船です!」

「! なんだと!? 見せろ!!」

「!」


レインの脳裏に行くなと言ったゾロの顔が浮かぶ。

しかし、それはどうやら麦わらの一味の船ではないようだった。


「あれは! レッドフォ―ス……!?」


大きな海賊船の船首にある竜が、こちらを見据えるように悠然とそびえていた。


「大佐……!!」

「赤髪!! なぜこんなところに……!!」

「!」


すでにレインが目視できる範囲にその船はいた。


(くそぅ……!! ほんのさっきまで他の軍艦もいたというのに……!)

「どうしますか!?」

「いや、まだ手を出すな!! あちらも様子を窺っているはすだ……!!」

「……」


混乱する船内を尻目に、レインは船の淵に腰掛けた。


「王女!? そこは危ないですよ! こちらへ!」


レインは未だ冷静になれない様子の大佐を表情は変えぬまま、ちらと見た。


「大佐……叔父にお伝えください」

「王女! 何を……!?」

「レインは……海に落ちて死んだと!」


そう言うとレインは後ろから真っ逆さまに海へと落ちた。
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