Butterfly
□3.別離
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砂嵐の中に身を投じようとするレインを力強い腕が引き戻した。
「行くな……ッ!」
ゾロだった。
ひたすら真っ直ぐにレインを見詰めるその目は怒っているような、どこか悲しんでいるようにも見える。
「……すまん」
「!?」
いまだ傷口から血が流れるその腹に、レインの拳が入った。
ほんの僅かにゾロの力が緩むと、レインは素早く手を振りほどき、砂嵐の中に姿を消した。
「……待て! 行くなっ!!」
何とか追おうとするゾロに砂嵐の中の向こう側から光が迸る。
「ゾロ!! 危ねぇ!!」
途端にルフィの腕が伸びてゾロの肩を掴む。
「うおっ!!」
避けた所は爆発を起こし、視界は更に遮られた。
「レイン……!!」
「……おいてめぇ! こっち来い!!」
視界を塞がれようが関係ないパシフィスタの攻撃はまだ続いていた。
ルフィとサンジは二人がかりで暴れるゾロを引きずるように船に導く。
「放せてめぇら……!!」
その時、執拗に攻撃を仕掛けてきていたパシフィスタは突如止まると、バチバチとショートしたような音だけを響かせた。
「!?」
重い地響きが足元を震わせる中、やっと現したその姿には、なぜか頭と両腕が消え失せている。
「これ……!!」
「まさかレインちゃんが……!?」
レインは、傷を負い軍艦の前で待機していた大佐に姿を見せた。
「レイン王女! ささ! どうぞお乗り下さい!」
「……」
しかし、レインが軍艦に乗り込もうとした一歩踏み出た時、
「よ〜し! 王女はこちらだ!! 撃て!!」
「な……!?」
五隻の軍艦から砲弾が一斉に放たれた。
レインが責めるように見上げると、大佐はどこか無表情なまま砲弾の行き先だけを見送っている。
「一海賊の生死など、貴女には関係のないことでしょう……。ビリア王が心配されております。どうぞ中へ」
「……ッ」
レインは一度睨みつけるとまたすぐ外に飛び出した。
「!? 王女!」
次々に放たれる砲弾はまるで雨の如く降り注ぎ、島の大地を面白いように破壊した。
だが、上空に漂う弾の群れは突如その丸い形を崩すと、ちっぽけな火花を散らしてそこらに墜落した。
「なっ……!?」
「……島を破壊するおつもりか?」
さっき飛び出したと思ったレインの姿は、まるで何もなかったように再度大佐の前に現れた。
「私がいれば十分でしょう。さ、早く船を出してもらおう……」
そう言うと、もう一度大佐をじっと冷たく見据えた。
(この王女……得体がしれん! このまま続ければ我らにも平気で牙を剥くかもしれぬ……。)
大佐は少しぞっとしながらも、レインの提案を呑むことにした。
「ゾロ!! ……来いって!」
「レインちゃんは海賊じゃねぇ! ひとまず海軍にいりゃ安全だ!! とにかくここを離れるぞ!!」
「だめだ……!!」
レインの最後の微笑みがゾロの胸をぎりぎりと締め付けた。
手がすり抜ける瞬間、レインは、叶えてみせる、と、呟いたのだ。
「行くなぁっ!! レイン――ッ!!」
島の中はまだ砂が舞い上がり、森は炎に包まれ、もうもうと白く煙を上げている。
だが、軍艦に乗り込んだレインには、最早何も見えなかった。
「王女……どうぞ中へ」
「いや、ここでいい……」
しかし、レインは次第に小さくなる島をいつまでも見詰め、あの夜、蝋燭に灯る火を消す時願った事を、もう一度強く思った。
もう誰も、自分の為に死なないように、と。
→4.赤髪の