Butterfly

□3.別離
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「やった! だいぶ減ったぞ!!」

「……」


パシフィスタの頭部からはパチパチとした火花が見える。

共闘で受けたダメ―ジで、どこかショ―トしていたようだ。

狂ったように誰もいない所に向けてレ―ザ―を発射しようとしている。


「わぁぁっ!! 無差別に攻撃し始めたぁ〜っ!!」


島中至る所が爆発し、慌てた海兵が右往左往していた。


「この……!!」


ルフィ、ゾロ、サンジは同時に飛び上がった。


「危ねぇだろうが―っ!!!」

「!!」


三人の攻撃を同時に受け、パシフィスタは地響きと共に大地に倒れこんだ。


「はぁ……はぁ……」

「もう……起きてくんなよ……」


妙な動きと機械音が続き、そのうちにその巨体は静かになった。


「やったぁ!」

「……」

(やはりこいつらは強い。 ……しかし……)


レインは痛む肩を押さえ、立ち上がった。


「ナミ……今のうちに皆を船に!!」

「なんで!? レインも一緒に……」

「……まだだ」


座り込む一味の前方の森から、今倒したのと同じ物が平然と姿を現した。


「!」

「ふふふ……誰も一体だけとは言ってない!」

(しかし……よもや二体目を投入することになるとは……)


今はまだ名の通った一味ではないにしろ、行く末が恐ろしいと海軍大佐は思った。


「こいつらを逃がすな!! ここで全員討ち取れ!!」


二体目のパシフィスタに加え、今まで退いていた海兵達がまた一斉に攻めてくる。


「おい!! やべぇぞ!!」

「船に急げ!!」

「……」

(何体いるのかわからないな……)


船に慌てて向かう一味とは逆に、その場に立ちすくんだままのレインにゾロが気がついた。


「……おい! 何してる!」


その一瞬の隙を突いて、パシフィスタからレ―ザ―が発射された。


「う……!!」

「ゾロ!!」


思わず身を捩って避けたものの、ゾロの腹が赤く切れた。


「もらった!!」


体勢を崩したゾロに、さらに詰め寄った海兵が刀を振り上げる。


「!!」


しかしそれは振り下ろされず、レインの剣に弾かれた。


「!」

「言っただろう、剣が乱れると……」


かわりにレインが振り下ろした剣は覇気を纏い 、そこら一帯の海兵は何が起きたかもわからぬまま吹き飛んだ。


「うわ〜っ!?」


その時、動いた為かレインの肩から再度血が噴き出す。


「お前……!」

「何が起きたんだ!?」

(これは……覇気!? あの王女は一体………)


一方で、船に走る一味はパシフィスタからの執拗な攻撃を受けていた。


「いてっ!! はぁ……しつけぇなこいつ!!」


皆懸命に避けるが、行く手は次々と爆破され、休む暇なく海兵からも攻められる。

次第に一味の疲労の色は濃くなっていった。


「レイン王女」

「!」


今まで高見の見物を決め込んでいた海軍大佐が、いつの間にかレインの傍に寄っていた。


「あなたが大人しく我々と来ていただけるなら、この一味をここではひとまず見逃しましょう……」

「!」

「あぁ!? 何言ってんだてめぇ!」


レインが何か返事をする前にゾロが野獣の如く噛みつく。


「小賢しい海賊風情が……! この方は元々お前らが口を利く事も叶わなんような身分の方なのだ! 慎め!!」

「……ッ!」


確かに、海軍にいた方がレインの身は安全だろう。

例の男も探しやすいのかもしれない。


(だが………)


ゾロは、レインを一味にとっては敵である海軍に連れていかれるのも、一味の安全と引き換えに差し出すのも絶対に嫌だった。


「何より、俺のプライドが許せねぇ……!」

「なっ……!」


ゾロが激しく斬りつけると、後ろの海兵と共に大佐をなぎ倒した。


「ぐわぁっ!!」

「大佐〜っ!!」

「ゾロ……ッ」

「お前は黙ってろ!」


しかし、刀を構えるゾロの腹からはどくどくと血が流れる。


「おい! お前ら、早く来いッ!!」


海兵をまとめて倒しながら、しばらく動かない二人を見て焦れたようにルフィが叫んだ。

レインとゾロはお互いの道を塞ぐかのように向き合った。


「……」

「……ゾロ」


二人の瞳には戦火に燃える森は映らない。

喧騒も聞こえない。

ただ、目の前に立つ者の瞳が映り、鼓動だけが聞こえた。


「……行くな」

「……」


レインは微笑んだ。

これ以上ないくらいの美しい微笑みだ。


「願いは……叶えなければ」

「!?」


体を包む夥しい何かが立ち昇ると、レインはそれを剣に宿し力任せに振り払った。

それは台風のような風を発生させると共に、そこら一帯の砂塵を引き連れ巻き上げた。


「うわっ!」

「なんだ!? 砂嵐か!?」


激しくうねる砂嵐により、島に立つ人間の視界は悪戯に塞がれた。


「なんだこりゃ!?」

「……レインよ!! 今のうちに早く!!」


言いながらも、ナミは姿の見えないレインに振り返る。


(レイン……信じてるからね)


ナミはレインの微笑みを胸に船に乗り込んだ。
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